生体材料や歯面の改質・高機能化技術の開発
産業技術総合研究所 ナノ材料研究部門 大矢根 綾子 総括研究主幹
生体に倣った成膜技術の研究
産業技術総合研究所の大矢根綾子博士
産業技術総合研究所(産総研)ナノ材料研究部門・大矢根綾子博士(総括研究主幹)は、基材の表面に生体組織となじむ物質をコーティング(成膜)することで、その表面を改質・高機能化するための研究開発を行っている。
通常、生体には体内に侵入した異物をさまざまな機構によって排除しようとする自己防御機能が備わっている。こうした反応はウイルスなどの外敵から身を守るためには重要だが、体内で長期間用いる生体材料においては問題となることがある。アパタイト(歯や骨の主要無機成分)をはじめ、ある種のリン酸カルシウム(CaP)化合物は異物反応を起こしにくく(生体親和性)、骨組織と直接結合する(骨伝導性)ことから、人工骨の素材として利用されているほか、金属製インプラントの表面改質剤としても臨床応用されている。
金属製インプラントへのアパタイト成膜技術としては、溶射法などの高温プロセスが主流だが、体液に類似のCaP過飽和溶液中で基材表面にアパタイトを析出させる「過飽和溶液法」が、生体バイオミネラリゼーションに倣った温和な成膜法として注目されている。この過飽和溶液法では、有機高分子などの低融点基材にも成膜できるほか、天然骨ミネラルに類似した構造・組成を有するアパタイトを成膜することもできる。しかし、複雑かつ長時間の工程を必要とするため、実用性に劣るという欠点があった。
歯科用半導体レーザーとフッ素添加過飽和溶液
高分子基材の表面の一部(黄色味を帯びた領域)に成膜されたアパタイト
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