中東情勢とヘリウムショック
2月28日に米国・イスラエルの両国がイランに対して軍事攻撃を行い、この攻撃により、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師が死亡した。後継者として息子のモジタバ・ハメネイ師が第3代のイラン最高指導者に就任し、米国・イスラエルへの徹底抗戦を宣言した。中東全域でミサイルやドローンによる報復の連鎖が続き、シリア、イラク、イエメンなど周辺地域の武装勢力も巻き込んだ、事実上の戦争状態となった。
イランのミサイル攻撃で周辺諸国の石油・LNG関連施設も被災。石油・LNGの供給停止、出荷量の制限が起きている。さらに、ホルムズ海峡が事実上封鎖され、世界経済に深刻な影響を与えている。原油価格が高騰し、石油・LNG関連製品の価格が上昇するとともに入手難から品薄状態になっている。
すでに板金業界でも設備の稼働に必要な作動油・潤滑油などの入手が困難になり始めており、現状が長引けば生産への影響は避けられない。また、発注元でも同様の事態が起きており、状況次第で板金需要にも影響が出ることが懸念される。3月以降にお会いした経営者の多くが「意思決定・判断が難しくなった」と語っており、今年度の設備投資計画を見直すことも視野に入れている経営者もおられた。
さらに深刻なのが「ヘリウムショック」。イランによるカタールのラスラファン工業地帯へのドローン攻撃を受け、LNGとともに、その副産物であるヘリウムの生産がストップ。世界のヘリウム供給の約30%を担うカタールからの供給網が寸断された。
「ヘリウムショック」はCO2レーザマシンを使用する企業に大きな影響を与える可能性がある。CO2レーザマシンの発振管内では、炭酸ガス・窒素ガスとともにヘリウムガスが「レーザ媒体ガス」として使用されている。ヘリウムは熱伝導率が非常に高く、発振管内の熱を効率的に逃がし、レーザ出力を安定させる役割を果たしている。
ヘリウムガスの入手が困難になれば、購入価格の上昇により、レーザ加工のランニングコストが大幅に上昇する。安定して調達できない場合、マシンの稼働停止や稼働を制限する必要が生じ、生産に支障が出ることが想定される。すでにヘリウムガスの価格が急騰し、ガス納入業者から、先々の供給ができなくなる可能性を通告された企業もある。
2010年代後半以降、CO2レーザマシンについてはヘリウムの調達が困難になることから、ファイバーレーザマシンへの入れ替えが推奨されてきたが、切断面精度や被加工材料によってはCO2レーザでの加工が必要な場合もあり、注視する必要がある。
さらに深刻なのは、医療現場で画像診断に使われるMRIの使用ができなくなるおそれだ。MRIには、強力な磁場を発生させる超電導磁石が搭載されており、この磁石を極低温(マイナス269℃)に保ち、超電導状態を維持するために液体ヘリウムが不可欠となっている。ヘリウムが不足し、装置の冷却が維持できなくなると、磁場が消失する「クエンチ」という現象が起こり、一度クエンチした装置の再起動には大量のヘリウムが必要になる。供給難が続けば再稼働のめどが立たず、検査予約がキャンセルされる事態になる。
定期的にMRI検査を受けている筆者が主治医に尋ねると、「不要不急のMRI検査はできなくなる場合もある」という返事だった。診断に必要な検査が受けられなくなる事態は避けてもらいたい。
中東情勢の一刻も早い安定を強く望み、日本の役割を果たすべく高市内閣の奮闘に期待したい。


