ニオブシリサイド基合金の高温変形機構の調査と解明
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 松永 紗英 助教
東京大学大学院 新領域創成科学研究科の松永紗英助教
次世代耐熱合金の開発を目指す
東京大学大学院 新領域創成科学研究科の松永紗英助教の研究テーマ「ニオブシリサイド基合金の高温変形機構の調査と解明」が、天田財団の2023年度「奨励研究助成(若手研究者)」に塑性加工分野で採択された。
本研究は新元素を導入した、ニオブシリサイド基合金の高温での相安定性と力学特性への影響を実験において明らかにし、現在の発電用ガスタービンやジェットエンジンの運転可能最高温度を超える温度で、優れたパフォーマンスを発揮する次世代耐熱合金の開発を目指している。
近年、電力供給源として再生可能エネルギーの利用が増加しているが、総電力需要を支えるベース電力として、ガスタービンを使用した火力発電は今後も使用されると想定される。また、新型コロナウイルスの流行により一時急落したものの、航空需要は世界的に年々増加しており、ジェットエンジンの台数は今後飛躍的に増加すると予想されている。カーボンニュートラル実現のためには、化石燃料に代わる水素、アンモニア、バイオ燃料など、より少ない燃料によって、より大きなエネルギーを生み出すことで燃料の燃焼温度を上げる必要があるが、現在のタービン運転可能最高温度はすでに既存の耐熱合金(ニッケル基超合金)の融点に対して約90%の温度にまで達している。
現在よりも高い温度で運転するためには、現在の運転可能最高温度を超える温度で優れたパフォーマンスを発揮する次世代耐熱合金の開発が急務となっている。
真空アーク溶解装置
650℃までの相変態や比熱を測定する
1300℃以上の高温域で高い強度を持つ
松永助教らは元素として高い融点、摂氏2468℃を持つニオブとケイ素を主な成分として、ほかにいくつかの元素を混ぜたニオブシリサイド基合金の融点が2000℃以上という点に着目した。優れた耐熱性と高温安定性を持つ「ニオブシリサイド基合金」は、より燃費の良い航空機エンジンや発電用ガスタービンのタービンブレードに使用するための次世代耐熱材料として1990年代から研究されてきたが、ベースとなるニオブ(Nb)とケイ素(Si)に混ぜる添加元素についての研究は限定的だった。
松永助教らはこれまでの研究で、有力な添加元素として期待されるジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)をそれぞれNbとSiに対して添加したNb-Si-Zr、Nb-Si-Ta、Nb-Si-Alの3つの系について、高温での相安定性と室温・高温における力学特性への影響を調査した。3つの系については、添加するSiの量と第3元素をそれぞれ変更して2種類の合金を作製。新元素を導入した合金を世界で初めてシリサイド相を大きな島状に析出させることに成功し、高温強度を飛躍的に向上できることが判明した。さらに、島状シリサイド相の実現により、従来型合金と比較して添加元素にかかわらずすべての系で力学特性が飛躍的に向上することを明らかにした。
それによって、1300℃以上という超高温域で高い強度を持つニオブシリサイド基合金を設計する際の新添加元素候補の情報を提供することができ、得られた実験データを広く世界に提供することで、第一原理計算などのコンピュータシミュレーションを使用した合金設計に利用し、優れた特性を持つ合金をより早く見つけ出すことを可能にした。
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