第35回 優秀板金製品技能フェア 優秀作品紹介(その2)
得意の溶接をあえて封印し、「曲げの極限」を追求
「双曲面」が「組立品の部」グランプリを受賞
株式会社 坂口製作所
折り紙の双曲面を板金で製作する
「第35回優秀板金製品技能フェア」(以下、板金フェア)の「組立品の部」で68件の応募作品の中からグランプリを受賞したのが、㈱坂口製作所の「双曲面」である。
折り紙でつくられた双曲面はWebなどで散見されるが、これを金属で製作することにチャレンジしたのが同作品だ。SUS304・板厚0.3㎜で加工した12個のパーツから構成されている。ひとつのパーツにつき曲げ箇所は8カ所で、ヘミング曲げや鋭角曲げを含め12工程の曲げ加工が行われている。特に頂点の加工が難しく、最小曲げ幅を確保するために展開プログラムを何度もつくり直しては試し曲げを行い、微調整を繰り返した。
最も苦労したのは組立工程だった。溶接レスで組み立てるため、パーツ同士を差し込み、引っかけることによりつなぎ合わせているが、金属は紙のようにたわませて差し込むことができない。そのため1カ所ごとに曲げ角度の変更を含む構造の見直しを行い、ようやく作品が完成したという。
審査では「折り紙の双曲面を板金で製作するため全部で12個のパーツを組み合わせてつくられている。1つのパーツの曲げ箇所は8カ所でヘミング曲げ、鋭角曲げなど12工程で製作。曲げ角度の微妙な調整をしないと組み上げることができない複雑な作品」と評価された。
特徴はアルミ・ステンレスの溶接技術の高さ
同社の工場は、紀伊山地の中央に位置する和歌山県有田川町清水地区にある。近くには「日本の棚田百選」に選ばれ、2013年に周囲の景観とともに「蘭島及び三田・清水の農山村景観」として国の重要文化的景観に選定された蘭島(あらぎじま)がある。風光明媚な景観と調和しながら工業用各種アルミ・ステンレス製品の製造、加工を行っている。
同社の特徴は溶接技術。アルミ溶接の溶接技能者が23名、ステンレス溶接の溶接技能者が10名在籍している。特にアルミ溶接について同工場は一般社団法人軽金属溶接協会から「軽金属溶接構造物製造工場M級」にも認定されている。これは「品質管理及び安全衛生対策が適切に行われ、設計・工作についても十分信頼でき、検査についても適正な体制が採られている工場」に与えられる認定で、現在、国内でこの認定を受けている工場は9カ所しかない。
また、「全国軽金属溶接技術競技会」において、過去複数回の上位入賞を果たしており、2012年に開催された「第38回大会」では同社従業員が3種目中2種目で優勝。アルミ溶接技術は国内トップクラスとの定評がある。
同社では9段15列(計135棚)を備えた自動倉庫MARSを中心に、TK(テイクアウトローダー)、棚付きのファイバーレーザ複合マシン、サイクルローダー付きのパンチングマシン、レーザマシンなどのブランク加工マシンに加え、ベンディングマシンなど、最新鋭の板金加工設備も備えている。浸透検査などの検査技術の資格保有者も在籍しており、切断、抜き、曲げから溶接、組立、検査までワンストップで対応している。
強みの溶接を封印して板金フェアに参加
「お客さまに安心して仕事を任せていただくためには、従業員一人ひとりの技術・技能の向上が欠かせません。溶接技能に関してはさまざまな競技会に参加することも技術・技能の向上へ向けた取り組みであり、腕試しの絶好のチャンスですが、板金加工に関してはそうした機会がありませんでした。そんな中、板金フェアのことを知り、第24回(2011年度)から毎年参加するようになりました」。
「得意の溶接をあえて封印し、曲げ加工のみでトライ。なぜなら曲げ加工が職人の最高峰の技術・技能であり、曲げの完成度によって製品の品質が左右されると考えているからです」(坂口社長)。
第29回(2016年度)では「板金版『サッカーボール』」が「組立品の部」の銀賞を、今回は「双曲面」が「組立品の部」のグランプリを受賞し、「社員一同大喜びで、大変光栄に感じています」(坂口社長)という。
会社情報
- 会社名
- 株式会社 坂口製作所
- 代表取締役社長
- 坂口 清信
- 本社
- 大阪府大阪市西成区千本中2-4-14
- 和歌山工場
- 和歌山県有田郡有田川町清水877-1
- 電話
- 0737-25-1150(和歌山工場)
- 設立
- 1986年(1951年創業)
- 従業員数
- 89名
- 主要事業
- 工業用各種アルミ・ステンレス製品の設計・製造・加工および販売
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