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夢なき者に成功なし

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NHK大河ドラマ「花燃ゆ」の視聴率がやや低調との調査結果が出た(2月末時点)。大河ドラマ好きとしては当初、吉田松陰の妹を通して松陰や松下村塾で学んだ志士たちが実現した、明治維新という歴史ドラマを紹介するという番組企画に不安を覚えたが、番組が始まってみると毎回楽しみになってしまいました。

高校時代の修学旅行で萩を訪ね、初めて松陰神社と松下村塾を見たときには、こんな所で維新を実現した逸材たちが育ったのかと感動した記憶があります。

大学時代に松陰の「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし」という言葉があることを知り、それを座右の銘にした時期がありました。「身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂」という辞世の歌を残し、29歳という若さで刑死した松陰のことを知りたいと思いながら、長らくそのままにしていました。

その後、たまたま萩近郊のお客さまを取材で訪問した際、お客さまが自らの経営理念について山口弁で語られた「夢なき者に成功なし」という言葉が長らく蓋をしていた思いにつながりました。「ぜひ、行かなくては」。それから、あわただしく時間を割いて再び松陰神社に立ち寄りました。

初めて訪れて以来20年弱が経過し、すでに松陰の享年を上回る年齢となっていましたが、萩のたたずまいと松の翠葉、耳に残った山口弁のイントネーションによって、訪れる人もなかった松下村塾でタイムスリップした雰囲気を味わったことを思い出します。

その後も自分の中では「夢なき者に成功なし」という言葉が指針のひとつとなっています。

ここ数年いろいろな方と話す機会がありますが、「夢」に関して話題になることが少なくなっています。若い人たちと話をしていても「夢」という言葉を耳にすることが少ない。小学生くらいまでは野球選手になりたい、宇宙飛行士になりたい、などと将来の夢を語るが、現在は、青少年に対するアンケート結果を見ても将来に「夢」を持つことが少なくなっている、という調査結果が発表されています。醒めている、現実的になっている、と言えばそれまでですが、「夢」という言葉が死語になり、そのまま「夢」を持てない社会というのもむなしい。

そして心配なのは「夢」を語らない経営者や中高年の企業幹部が多くいるということです。さいわい取材でおうかがいする企業経営者にはポジティブな方が多く、社員に積極的に自分の夢を語り、会社の将来に関しても熱く語る方が多い。しかし時には「夢では飯は食えない。今は仕事がほしい」と、こわばった顔で語る経営者にお目にかかることもあります。また、「言わぬが花。指示されたことだけをしっかりやっていれば良い」とサラリーマン化した経営幹部の方々に遭遇することもある。そんなことで、企業や仕事が前へ進んでいくのだろうか―老婆心ながら考えることがあります。

しかし、夢を持つことができない社会や企業風土も問題です。私は3.11東日本大震災後に、ある方から「あなたのようなメディアは、読者に夢と希望と勇気を与えることが仕事だと思う」と言われたことがあります。それ以来、意識的に夢と希望と勇気を語ってきました。

大河ドラマの視聴率が少しずつ上昇カーブになってきたことも含めて、改めてこの機会に多くの人が夢を持てるような社会、夢を育む希望と勇気を持てる環境をつくることの重要さを再認識したいと思います。

「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なきものに成功なし」と。

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