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「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

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「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」 ― これはドイツの鉄血宰相と呼ばれたオットー・フォン・ビスマルクの格言です。「愚者」は自分で失敗して初めて失敗の原因に気づき、その後同じ失敗を繰り返さないようになるという意味で、これでは経験したことからしか学べない。それに対し、「賢者」は自分が経験できないことも先人たちが経験したこと、すなわち歴史を学ぶことで多くの経験を身につけることができる、ということだと思います。賢者は過去の他人の失敗から学び、同じ失敗をしないようにするというわけです。

一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生は、1984年に上梓した『失敗の本質』で、日本が第2次世界大戦で敗戦を喫した原因を「当時の日本軍は作戦が失敗すると、その原因などを分析するのではなく失敗を覆い隠すようなことをして失敗から学ぶことしなかったことに大きな要因があった」と分析。日本軍の敗因分析からさまざまな教訓を引き出し、勝てる組織になるための方法を提言されています。『失敗の本質』は異例のベストセラーとなり、経営者必須の書になりました。

しかし、昨今の日本の政府・企業は激変する世界情勢の中で周回遅れとなり、新型コロナウイルスの感染拡大、財政再建、金融政策、環境破壊や自然災害の拡大、ウクライナ侵攻などによる地政学的・軍事的な緊張の高まりといった国難に十分に対応できているとは言えない状況があります。かつての日本軍と同じように失敗を隠蔽する組織や企業が多いのが現実です。

失敗の要因を明らかにして、不備や不具合を検証して修正するぐらいは、当然行うべきです。これを行わずして失敗を覆い隠すような行為をするから、先人の失敗から何も学ばず、人が変われば同じ失敗を繰り返してしまうことになるのです。大手企業による製品検査データの不正、捏造疑惑が次々と発覚している今こそ、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」を反芻し、混乱の時代を乗り切る知恵を学ぶ必要があると思います。

板金業界でも大同小異で、こうした問題が起きています。経営者が新規事業に取り組む場合、必ず何らかの新しい要素が入り込むためにリスクが大きくなります。リスクを減らすためには新しい要素をできる限り少なくすることが重要です。確実なのは、経営者の経験に基づいてリスクを減らすことですが、これでは「一度は失敗をしないといけない」ということになります。

賢者は他人の失敗から学ぶ ― 他人すなわち同業他社や取引先などの過去のプロジェクトの結果を分析して同じ失敗を繰り返さないことが、新規事業で失敗しない最良の方法だと思います。新規事業に取り組む際にはどのようなリスクがあり、それを防ぐためにはどのような対策が必要かを検証することが重要で、こうした取り組みは「リスクマネジメント」と呼ばれています。

「リスクマネジメント」でリスクを洗い出し、過去に類似した取り組みがあるか否かをチェック。他社の失敗例を洗い出し、何が不足していたか、何が遅かったかなどの原因を探り、同じ轍を踏まないように学ぶことができます。

進もうとする事例を主観的に見るか、客観的に見るかも、物事を正しく見極められるかどうかの差につながります。そのためには、業界のさまざまな情報を入手するとともに、歴史に学ぶことが必要です。歴史の中には、さまざまなヒントや道しるべが隠されています。

過去の事例をひもとけば、何が起こるかが見えてくると思います。そして想定されるリスクを予見し、リスクマネジメントの仕組みを確立しておくことが重要です。板金業界の経営者とお話ししていると、こうした詰めの取り組みが少ないと感じることがあります。

あらためて「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」の意味を正しく汲み取っていただきたいと思います。

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