視点

参加者の意気込みに変化 ― 「優秀板金製品技能フェア」

LINEで送る
Pocket

職業訓練法人アマダスクールが主催する「第33回 優秀板金製品技能フェア」(以下、板金フェア)で厚生労働大臣賞、経済産業大臣賞をはじめとした上位賞6賞、部門別グランプリ4賞の栄誉に輝いた10社のお客さまを取材し、応募動機や応募作品のアピールポイントなどをうかがった。

毎年3月に受賞作品が発表されるため、小誌5月号(年によっては6月号)で受賞作品を紹介することが通例となっている。作品への思い入れがその時の経済状況、社会情勢によっても変わるので毎回、この取材を楽しみにしている。

今回の受賞作品を見て、発想や加工方法、取り組む社員の姿勢、見守る経営者のスタンスにこれまでにはない意気込みを感じた。コロナ禍のもと、「非接触」「リモート」という新常態への対応が迫られ、ものづくり環境は大きく変わった。米中摩擦をはじめとした世界経済の変化、カーボンニュートラル、脱炭素社会への取り組みが本格化したことも大きい。受賞企業の多くが、思いつきだけでは実現できない技術データの裏付けを持って、新しい工法にチャレンジしていた。

直剣、グースという2種類の標準金型だけで64曲げを行い、その半分以上の工程を目視によるケガキ曲げで加工した「Rのクロージング曲げ」(厚生労働大臣賞)。曲げ・プレス加工を行わずレーザケガキによる熱ひずみだけでRを成形して、球体を製作した、「ひずみ玉」(経済産業大臣賞)。仕上がりの形状から展開が想像できない1枚の素材から製作した「曲旋」(中央能力開発協会会長賞)。溶接や嵌め込みによる強制力なしで合わせ精度を維持し、1枚の素材を80曲げで2対の32面体を製作した「32+32面体」(日本塑性加工学会会長賞)。レーザの加工特性を活かしてソリッド部品を積層、ローレット部をギザ歯加工などでリアルに表現、特にレンズ収納部を忠実に再現するなど細部の再現性にこだわった「クラシックカメラ」(日刊工業新聞社賞)。マトリョーシカ構造の4層の球を±0.1㎜のクリアランスのレーザ加工で切り込みを入れ、嵌め合い構造で製作、素材を螺旋状にレーザ加工後に残留応力を解放することで立体的な台座を製作した「ステンレスQ」(神奈川県知事賞)など、いずれも素晴らしく独創的な作品となっている。

製作した社員さんたちも作品が完成したタイミングでは何らかの賞を受賞できると自信を持っておられたようだが、実際に他社の応募作品をオンラインで見てみるといずれも力作が多く、少し気弱になる場合が多かったようだ。それだけに受賞の知らせが伝わると大変喜ばれていた。

第33回を数える板金フェアも知名度が高まり、受賞によって新規取引のチャンスも増えている。そして何よりも今風なのは営業活動に作品を活用し、「当社ではこんな作品をつくれる技術がある」とYouTubeに動画をアップする企業が複数見られたことだ。

「最近はお客さまのエンジニアでも3次元の絵が描ければモノができると考える人が増えている。そんな人に『こんな形状の製品が』『こんな工程とマシンで』加工できるということをPRするには板金フェアは絶好の機会」というように、板金フェアを新たなビジネスチャンスとして考える経営者も多い。

世界的に大企業では固定費負担の重い製造を分離することで、GAFAのような高収益体質の企業を目指す傾向が強まり、受託製造するEMS型の企業が増えている。板金業界でもこれから技術力のある企業はものづくりに徹したEMS型のビジネスモデルを目指す動きが出てくることが考えられる。そうした芽が板金フェアにも見られるようになっている。

LINEで送る
Pocket

関連記事

視点記事一覧はこちらから