研究室訪問

複合材料の基礎研究から、新材料の高度利用技術・設計手法の研究へ

一般社団法人日本機械学会 筆頭副会長/早稲田大学 理工学術院 川田 宏之 氏

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画像:複合材料の基礎研究から、新材料の高度利用技術・設計手法の研究へ重点研究開発助成の研究テーマに取り組む川田研究室のスタッフ。右から川田宏之教授、修士課程M2の奥茂洸一さん、博士課程在学中の金太成さん、修士課程M1の十河和嘉さん、学部4年生の久司成輝さん

平成30年度の重点研究開発助成を受ける

天田財団の平成30年度の「重点研究開発助成(課題研究)」(助成金額最大1,000万円)に「引抜き成形を用いたカーボンナノチューブ繊維の高強度化」の研究テーマが採択された早稲田大学理工学術院の川田宏之教授の研究室では、航空・宇宙分野での利用が拡大している軽量性・高機能性を有する複合材料の破壊問題を対象とした実験研究を行っている。

早稲田大学理工学部は、2007年4月から3学部・3研究科になっており、川田研究室は基幹理工学部の機械科学・航空学科(Department of Applied Mechanics and Aerospace Engineering)に所属する。

  • 画像:複合材料の基礎研究から、新材料の高度利用技術・設計手法の研究へダイスから引き抜かれた直径75µmのCNTウェブ
  • 画像:複合材料の基礎研究から、新材料の高度利用技術・設計手法の研究へ引っ張り試験機などが並ぶ川田教授の研究室

新しい材料の高度利用技術や設計手法を研究

大型構造物(航空機、衛星、発電用ブレードなど)に炭素繊維強化複合材料(CFRP)が多用されるようになり、その基礎研究がますます重要になっている。同研究室では、カーボンナノチューブ(CNT)の基礎的研究、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)の疲労強度、繊維強化熱可塑性プラスチック(FRTP)の衝撃エネルギー吸収機構、複合材界面の強度評価などで10社の企業との共同研究を行っている。

研究内容は主として、極限環境下での繊維強化プラスチック(FRP)の耐久性を研究(実験による検証、破壊モデルの構築)することから、新しい材料の高度利用技術の開拓、それを用いた新設計手法の提案を目指している。

最近は次世代の機能性材料として期待されているCNTを樹脂中に分散させることで、優れた機械的特性を有する複合材料を作製する「CNT分散性評価研究」を行っている。CNTは凝集性が高く、有機溶媒や樹脂への分散性が困難であることが知られているが、川田研究室では有機溶媒中において電極間で発生した放電を利用してCNTの表面処理を行い、CNT同士の凝集力の低減や樹脂と混合する際の親和性の向上に取り組んでいる。

さらに同研究室では「CNT糸の機械的性質改善を目指す研究」も行っている。CNTは数nm(×10-9m)程度と非常に「短い繊維」で、取り扱いが難しく用途が限られる。そのため、CNTを炭素繊維やガラス繊維のように長繊維化することが課題となっている。2002年には米国の研究者によってCNTを紡績して一本の糸にする技術が開発された。CNT同士は強いファンデルワールス力で結合しているため、糸状を維持することができる。同研究室では複合材料への適用に向けたCNT糸の機械的性質改善を行っている。

CNTは近年、FRPの添加材としての利用も検討されており、その手法のひとつとして強化繊維表面へのCNT析出が挙げられている。繊維上へ直接CNTを成長させることで、母材樹脂と複合化した際に生じるCNT凝集体の低減に加え、繊維/樹脂間の界面特性の向上が期待されている。

同研究室ではとくに、フラグメンテーション試験によるミクロスケールでの界面特性評価や、CNT析出繊維を強化材とした階層型FRPの機械特性の調査を行う、「CNT析出繊維を強化材とした階層型FRPの力学特性評価に関する研究」も行っている。

つづきは本誌2019年10月号でご購読下さい。

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