板金論壇

「一国二制度」に揺れる香港・台湾から日本を考える

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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安定度の高い日本

3カ月にもわたって混乱が続く香港大規模デモ。南北に分断され統一という課題を抱える韓国・北朝鮮、混迷を深める日韓関係を見ていると、日本という国の安定度の高さを痛感する毎日です。

先日、今年2度目の台湾取材に訪れた際に、長年親交のある経済人を通して、そのことを改めて強く認識しました。それと同時に、日本はこれまで「平和ボケ」とも言われ続けてきましたが、今という時代は日本という国や日本人のあり方が問われているのだと感じました。

「一国二制度」で揺れる香港・台湾

台北でお会いしたその経済人は、来年に迫った総統選挙の情勢を、こう分析されていました。

「香港の情勢は、民進党の蔡英文政権にさらなる勢いを与えることとなった。香港で最初の大規模デモが勃発すると、蔡総統はただちに、すでに民主化を果たしている台湾は絶対に『一国二制度』を受け入れないとする声明を発表した。『民主主義の守護』を前面に打ち出した姿勢は、『香港を支えよう』とする台湾市民社会の論調とも共鳴し、蔡総統、ひいては民進党の支持率をさらに引き上げている」。

「一国二制度」は中国が香港・マカオの主権を回復し、台湾との統一を実現するために1978年末に打ち出した統一方針。この方針によって、中華人民共和国を中央政府として、平和統一の前提下で大陸は社会主義制度、香港、マカオおよび台湾は高度な自治権を有する特別行政区として資本主義制度を実行する ― という考え。特別行政区は現行の社会・経済制度、法律制度、生活方式および外国との経済文化関係を変えず、立法権、終審権、外事権、貨幣の発行権を有し、また台湾の場合、大陸に脅威を与えないかぎり独自の軍隊をもつことができる ― という内容となっています。

これに従って1984年12月19日、中国は1997年の香港中国返還問題に関する共同声明を発表し、1990年に採択された香港基本法で1997年以後の香港基本制度を定め、香港に関する「一国二制度」を具体化し、1997年7月1日の返還にともなって適用しました。また、1987年4月13日、中国とポルトガルはマカオの中国返還問題に関する共同声明を発表。1999年12月20日の返還にともなって同じく「一国二制度」を適用しました。

「一国二制度」への不信感が募る

台湾では、蔡総統の前任者であった国民党・馬英九総統が「三不」(台中統一・台湾独立・武力行使のいずれも行わない)をスローガンにバランスを保った姿勢を見せ、中国の習近平国家主席との関係を強化することで、「一国二制度」による中国との融和工作を進めました。しかし、香港で起きた大規模デモは、中国本土への容疑者引き渡しを許すという改正案で、司法の独立という「一国二制度」の根幹を揺るがす内容とされ、多くの香港市民が反発しました。

習主席就任後の中国は、これまでも香港の言論の自由を脅かすような言動をとり、中国の「一国」支配だけが強まっています。今回の香港での大規模デモは「二制度」を踏みにじられた香港市民の危機感の表れともいわれています。それだけに台湾の人々の間でも「一国二制度」に対する反発が広まっています。

もともと馬政権の中国政策への反発から2016年5月に誕生した民進党・蔡政権は、発足後に公務員年金制度改革など“痛み”をともなう施策を断行したことなど、経済政策の失敗から、支持率が長期低迷しました。さらに昨年11月の統一地方選では国民党候補に大敗し、来年5月の総統選挙ではきびしい結果になるとの見方が強くなっていました。そこに今回の香港問題が起きたことで、台湾人の多くが「一国二制度」に対する不信感を募らせるようになっています。

つづきは本誌2019年10月号でご購読下さい。

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