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「底なし」 ― 中国の開発力に脅威

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最近、お会いする産学の方々とお話をするにつけて、中国の勢いが止まらないのを感じます。すでにEV(電気自動車)や自動運転に関連する実用化は断トツで、さらにレーザ技術の研究や実用化でも目覚ましい発展を見せています。8年ほど前、武漢で立ち上がった「オプティカルバレー」(中国光谷)を見た頃とは隔世の感があります。

公式の数字は公表されていませんが、中国で昨年販売されたレーザマシンは1万台を超えたといわれています。すでにファイバーレーザマシンのエントリーモデルは、1kWクラスは600万円、1.5kWクラスは800万円程度で販売されているそうです。こうしたレーザマシンを導入して賃加工を行うジョブショップの実勢価格は、周長1mで0.63元、昨年の今頃は1.6元だったというので、1年で60%も下がったことになります。

また、現在世界で走っているバスの台数は250万台。このうち約17%、42万5,000台が電動化された電気バスで、そのうち99%は中国で走っています。

中国では国家の主導によって、あらゆる種類の車の電動化が推進されています。電気バスは、1回の充電で約362㎞走行できるそうです。都市部の場合、1日に1回充電しなければなりませんが、排ガスによる大気汚染が深刻な中国では電動化は急務となっています。そうした社会的ニーズが国を動かし、電動化を加速させるとともに、リチウム電池をはじめとした電動化に関連するシステム開発を後押しし、中国が圧倒的な力を備える原動力となっています。

レーザ分野でも、以前は米国・ドイツといったレーザ先進国の大学に留学して成果をあげ、研究者としてその国に留まり活躍していた中国人研究者が、最近は留学先で実績を積んだあと中国へユーターンするケースが増えているということです。そしてレーザビジネスを起業したり、国家プロジェクトに参画するケースも多いようです。中国でレーザ機器が安い理由は、帰国した研究者が起業した発振器メーカーや、大手企業に高額の報酬で引き抜かれた研究者が発振器を国産化、低価格で供給するようになったことから価格破壊が起きているためともいえます。

トヨタ自動車は、電動自動車の世界販売台数を550万台とする目標の達成時期を5年前倒し、2025年とする計画を発表しました。そして以前からリチウム電池の共同開発を行っているパナソニックに加え、中国のCATL(寧徳時代新能源科技)、BYD(比亜迪)とも協業することを明らかにしました。電動化に際して、もはや中国の技術力・製造能力を抜きにしては量産が実現できない状況になっています。

中国に赴任した人の話では、中国ではキャッシュレス化が加速する一方、犯罪の発生が減少しているということです。あらゆる場所に防犯カメラが設置され、公安・警察が常時モニタリングすることで犯罪を未然に防ぎ、犯罪者など特定の人物の顔認証もAI技術によって正確に行えるようになりました。いつ、どこで、誰が、何をしていたかという素行履歴が明確になってきたからだといわれています。これは管理社会が進んだことの裏返しでもありますが、「安全・安心」という観点では優れているともいえます。ここで活用される顔認証のAIシステムなどの開発でも中国は進んでいるようです。

こうした事実を積み重ねてくると、13億人を抱える中国の市場の大きさと、あらゆるものを飲み込んでいく底なしの開発力を感じます。

人口減少などで活力を失う日本が、ますます取り残されていくと不安を感じる方々も多いのではないかと思います。

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