明るい数字に安心せず、この先の構造変化を見据える
私が板金業界を取材しはじめて40年以上、これまでうかがった板金加工企業は国内外で2,000社以上になります。中には倒産、廃業した企業もあります。繰り返しうかがった企業の中には後継者が事業を発展させ、売上が10億、20億、30億円超えと大きく成長した企業も数多くあります。
先代社長に紹介され、初めてお会いした後継者の多くが肩書こそ専務や取締役となっていましたが、社長を前にしていたこともあったのでしょうが、中には大人しくひ弱な感じを漂わせていた方もいました。それが社長就任後しばらくしてお会いしてみると、肩書が人を育てるというわけではないですが、少し背伸びをした立場や役割を与えられたことで、責任感や自覚が引き出され、成長されたという印象があります。先代社長をはじめとして周囲からの期待に応えようとする気持ち、新しい権限・情報が成長の原動力になったように思います。
しかし、中には後継者が社長の経営方針に疑問を感じて異論を述べ、社長と仲たがいして会社を飛び出した残念なケースもありました。たたき上げてきた知見と経験 ― いわゆる「KKD」(経験・勘・度胸)で企業の舵取りをする社長に、大学や前職での経験から、疑問や異論を持っている後継者は多くおられました。それでも社長の経営スタイルを「時代遅れでリスクが高い」と表現される一方で、「決断力は備えており、そんなカリスマ性は自分にない」と表現された方々もおられました。
また、「ものづくりは自分には向いていない」といって事業承継を拒んでほかの業界で活躍されている方もおられます。そうした企業は廃業するか、M&Aで事業譲渡されました。事業譲渡後も雇われ社長として経営を継続、資金繰りなどの負担が軽減して余裕が生まれ、これまでは見えていなかった現実が見えるようになって、増収増益の企業体に発展したケースもありました。
ところで、今年になってAI・半導体・データセンター需要が牽引することで、多くの企業が「この先もしばらく需要が続く」と判断し、新たな設備投資に踏み切るようになっています。設備投資は景気の先行指標といわれるだけに、日本経済にとって明るい材料であることは間違いありません。
一方で、日本経済にはいくつかの課題が残っています。後継者難、人手不足、賃金と物価の上昇、日銀による金融政策の正常化によって、超低金利時代が終わりつつある中、企業の借入金利や設備投資コストは徐々に上昇しています。これまで低金利に支えられてきた企業ほど、資金繰りへの影響を受けやすくなっています。
また、海外にも不確実性があります。米国経済の減速リスク、中国経済の回復ペースの遅れ、ウクライナ、中東、朝鮮半島などの地政学的緊張、円安による為替相場の変動などがあります。足もとは過去経験することなかった「不確実性の時代」となっています。
日本経済は当面、設備投資とAI・半導体関連需要を背景に底堅く推移する可能性が高いものの、一本調子の景気拡大を期待できる状況ではないと思います。今後1~2年はAI・半導体・データセンター、脱炭素関連など成長分野への投資が景気を支える一方で、後継者問題や人手不足、コスト上昇、金利上昇への対応力が企業間の明暗を分けることになりそうです。個々の企業が生産性向上や人材投資、技術革新を進められるかどうかにかかっています。明るい数字に安心するのではなく、その先にある構造変化を見据えることが重要なのは今も昔も変わりありません。


