自社の価値を見極め、ブラッシュアップすることが大切
「願わくは花の下にて春死なむ その如月の望月の頃」 ― 私は西行法師が晩年に詠んだこの歌が好きです。終活を意識しているわけではありませんが、桜の時期をむかえると自然と口ずさんでいます。
釈迦が入滅されたといわれる旧暦2月15日の満月の頃に死にたいとの西行の想いが伝わってきます。そこまで詳細に指定しなくとも、桜が満開になる頃に人生を終えたいと思う気持ちは私にもよくわかります。
定年退職をむかえ第二の人生をスタートする熟年者、会社・学校に入社・入学した若人など、節目をむかえる人々にとって、満開の桜はそのスタートを応援してくれていると感じるのだと思います。そんな節目の時期だからこそ、その時期の、しかも満月の夜に亡くなりたいという気落ちがわかります。
西行は自死ともいわれていますが、その思いどおり、旧暦2月16日に桜を見ながら亡くなったともいわれています。
世界は今、米国トランプ大統領が発動した「相互関税」の問題で大きく揺れています。リーマンショック、コロナショックに匹敵する「トランプショック」と表現される方々もいます。世界の株式市場では、株価が乱高下しており、しばらく市場は混乱が続くといわれています。
さすがのトランプ大統領も、発動を宣言した直後にドル安・債券安・株安のトリプル安が米国売りによって起きたことから、発動後に対抗措置を発表しなかった国に対しては90日間の猶予を発表するなど、朝令暮改も目立っています。日本は対抗措置を取らなかった各国に先駆けて対米交渉をスタートしており、動向に注目したいと思います。
この発表以降にお目にかかった企業経営者の多くが「落ち着くまで半年程度は様子をみたい」と言われ、中には工場増設計画・設備導入計画を凍結するという企業もありました。これまでも景気の先行きが見えない不確実な状況だっただけに、今後半年程度はなおさら予断を許さない状況が続くものと思われます。
そんな不確実な時代だからこそ、自社の強みを強固にして、事業基盤をしっかり固めていこうとする企業が多く見られるようになっています。
ある企業は、これまで取引していた得意先との関係をさらに盤石にするため、得意先がこの企業に求める価値をしっかりと確認し、その価値をこれまで以上に高めるための努力をされていました。特に脱炭素への取り組みとして、得意先の取り扱い製品に関するCO2排出量を計算し、得意先からの要請を待たずに情報提供。得意先の担当者からは、そうした環境経営への取り組み姿勢を高く評価されているようです。
別の企業は、得意先の設計部門とのコラボレーション強化に取り組んでいました。定期的に得意先の設計者を招き、工場見学会を開催するとともに、設計者の要望をしっかり聞き取り、それを受注製品に反映させるためのプロセスを設計者と一緒になって考える取り組みをされていました。設計者が加工の実情を理解し、加工設備・加工技術の加工領域・加工限界を知ることで、手戻りがない設計ができると好評ということです。
どちらの企業も、発注元と協力会社という上下の関係から、製品価値・企業価値を構築するパートナーの関係へと高めることで、得意先に対する自社の価値を高めていました。
不確実だからこそ、自社の足もとをしっかりと固め、自社の価値を見極め、ブラッシュアップすることが大切だと感じました。