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デジタル技術活用の前に、人材育成の大切さを知る

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今号では「第37回 優秀板金製品技能フェア」(以下、板金フェア)で上位賞を受賞した6社のお客さまを紹介している。受賞企業を訪ね、製作担当者や経営者と話をする中で、あらためてデジタル技術を活用する前に人材を育成することの大切さを学ぶとともに、鍛圧板金業界での板金フェアの重要さを強く感じました。

人手不足を補う製造業のデジタル化は、ロボットやシステム、IoTなどのデジタル技術の応用によって、アナログで非効率な業務を改善し、生産性を向上させることで省人化・自動化を実現し、人手不足の解消に貢献している。最近では板金業界でもAIを活用して、現場のベテラン従業員の技術・技能を学ばせることによる技術伝承に注目が集まっているが、ベテラン従業員のどのようなポイント、場面から学習していけば良いか、しっかりとプロセスを指示する必要がある。そのためには、ものづくりを理解し、技術伝承に必要な技術・技能を取捨選択できる能力を備えたテクニシャンが必要となっている。

そうしたテクニシャン育成のために板金フェアを活用している企業が増えていると感じる。応募作品づくりを通じて、自分で何かをつくり上げる努力によって得られる成果を実感させ、結果によって大きな達成感が得られることを経験させるという考えで参加する企業が増えている。特に受賞した企業に、そうした傾向が顕著に見られると感じる。

ものづくりはもともと自己表現できるツールであり、創造力・想像力を育成するには最適だ。自分でアイデアを出しカタチにしていくものづくりは、発想力や想像力を刺激してくれる。また、加工した製品の寸法や角度を測定したり、切断~穴あけ~曲げ~溶接・組立を行ったりして、実際に作品をつくり上げることで、理論では学べない実践的なスキルが身につく。理論的な知識がどのように機能するかを実感できるので、知識への理解がより深まる。

さらに手先を使うことで脳が刺激され、知識の深まりも期待できる。何よりもアイデアや想いをカタチにすることで、個性や才能を認識でき、自己を周囲に示すことができるようになっていくので、ポジティブな思考を持ちやすくなり、自己肯定感の向上が望め、仕事に前向きな人材としても成長できるようだ。これを繰り返すことで理論では学べない実践的なスキルが身につく。

一方で、ものづくりの現場では、絶え間ない変化への対応が求められている。市場ニーズの多様化や技術の急速な進歩・発展が、その背景にある。従来の手法に固執していては、競争力を失いかねない。そのために、ものづくりの現場では、さまざまな場面で創造性が求められている。

「創造性とは、既存の知識や経験を統合し、新しく価値あるものをつくり出す能力」ともいわれている。ものづくりの現場や作品製作のプロセスでは、思いどおりにいかない問題が必ず発生する。機械のトラブルや設計の不具合など、数多くの要因が工程を妨げることがある。そのような状況においては、ただ問題に立ち向かうだけではなく、柔軟な発想で解決策を見いだす必要がある。問題の原因を突き止めることも大切だが、こだわりすぎると、かえって思考が硬直化するケースもある。「問題から距離を置き、発想を転換してみると、新しい道が開けることがあった」と語る担当者もおられた。

そうした点からも板金フェアは人材育成には欠かせない存在になりつつあると再確認した。それとともに、デジタル化への取り組みに加え、現場で作業する人材の育成を考えることの大切さを学んだ。

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