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「Industrie 4.0」と日本の立ち位置

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ボストンコンサルティンググループ(BCG)は、このほど「Industrie 4.0」がドイツの製造業に与える影響を試算したレポートを発表した。それによるとコスト削減効果はドイツ全体で年間900億~1,500億ユーロ(約12兆~20兆円)。Industrie 4.0が普及することでドイツ企業にとっては、新たに200億ユーロ(2.6兆円)から最大400億ユーロ(5.2兆円)の市場創造が見込まれる。雇用・投資に関しても今後10年間で39万人の雇用、2,500億ユーロ(約32.5兆円)の投資を生むとしてい
る。

このことを証明するかのように、4月13日から17日までドイツ・ハノーバー見本市会場で開催された世界最大級の産業見本市「ハノーバー・ メッセ 2015」では、Industrie 4.0に関連した特設ブースが設けられ、ドイツ政府と、VDMA(ドイツ機械工業連盟)、ZVEI(ドイツ電気・電子工業連盟)、BITKOM(ドイツ情報技術・通信・ニューメディア産業連合会)などのドイツの主要産業団体が、Industrie 4.0を活用した「産業統合」の効果をPRした。

「統合型製造」を実現することによって、機械と製造過程の製品が互いに意思疎通を図れるようになる。そして、製造ライン全体で自律的かつダイナミックな再設定が可能となり、大規模工場における小ロット受注生産の採算性を確保できるようになると説明していた。さらにIndustrie 4.0は統合型製造のみならず、製造に必要な広範なエネルギー源である電力・ガス・熱の供給能力の最適化と活用を可能にするため、ITを駆使したスマートグリッドを構築することができるともPRした。

産業システムとエネルギー活用プロセスのデジタルネットワーク化によって、生産現場だけではなく、統合される様々な機能や企業や産業に影響力を発揮、スマートグリッド、スマートファクトリー、スマートシティー、スマートハウスなどが実現することを予見させた。この様子は日本のメディアでも大きく報道され、経済効果ともあわせIndustrie 4.0は日本でも広く知られることとなった。

2012年からドイツが産官学で進めるIndustrie 4.0は、着実に世界のデファクトスタンダードへの道を進んでいる。しかし、それで十分かといえばIndustrie 4.0は“効率化”に重点を置いた仕組みであり、それを導入する個別企業の導入成果となると明確ではない。特にこの仕組みはトップダウンで構築されるので、サプライチェーンに組み入れられている中小のサプライヤーが、どの程度までその価値を見出せるかといえば、まだ限定的といわざるを得ない。その意味でも、今号の板金論壇でも触れているように、ボトムアップ型で現場やそこで働く作業者―ヒトに重きを置く日本企業が、Industrie 4.0をそっくりそのまま導入しても、成果を得るのはきわめて難しいと思われる。やはり日本人の特性を考慮した仕組みづくりが必要なのか。

最近のアジア―とりわけASEANのモノづくり事情に精通された方の話を伺うと、この地域でもIndustrie 4.0への関心が高く、その結果、ASEANの製造業はドイツを向いて、これからの設備計画を考えているという。その要因として考えられるのが、ボトムアップ型の日本のモノづくりを導入しても、現場を支えるヒトの教育ができず、結果としてトップダウン型の仕組みづくりを考えていかなかなければ生産性向上が期待できないからだという。これは裏を返せば、日本のようなヒトに依存する仕組みは、日本を除く世界では到底真似ができないということにもなる。しかし、それでは日本のモノづくりは世界から取り残されてしまう。

Industrie 4.0の経済効果が試算される中で、日本の立ち位置が問われてきている。

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