板金論壇

「Industrie4.0」に対応する日本の「つながる工場」の要件を考える

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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「つながる工場」

「Industrie4.0」への関心が高まる一方で、「Smart Factory」(賢い工場)を「つながる工場」と位置づける考え方が、日本の中小製造業経営者の間にも浸透してきた。

「Industrie4.0」はICT(Information&Communication Technology)を活用し、機械設備などの稼働状況をセンサーでモニタリング、遠隔サポートするとともに、ネットワークを介して、ビッグデータといわれる製品の発注から加工・出荷・保守・メンテナンスに至る大量のデータの蓄積・分析を可能にして、加工設備から工場全体のネットワーク化を進め、それをさらに産業全体へと拡大することを目指す。それによって産業全体を俯瞰して、機動的に課題を解決することで、さらなる効率化、付加価値向上を実現する新しい次元の技術革命―「第4の産業革命」であり、ドイツが進める国家レベルの取り組みである。

「Industrie4.0」が目指すのはトップダウン型

2012年にVDMA(ドイツ機械工業連盟)、ZVEI(ドイツ電気・電子工業連盟)、BITKOM(ドイツ情報技術・通信・ニューメディア産業連合会)を事務局とするワーキンググループ「Industrie4.0作業グループ」が立ち上がり、現在ではドイツ国内で5,000社以上の企業が参加している。

ドイツは日本同様にモノづくり大国であり、中小製造業を中心としたサポートインダストリーが充実しているとともに、その中小企業が輸出産業の中核として自社商品を開発し、それを世界市場で販売するようになっている。そしてこれからもドイツが世界のモノづくりをリードしていく潮流をつくるために「Industrie4.0」を世界のデファクトスタンダードに育てていこうとしている。

マイスター制度が伝統的に継承されるドイツでも、最近は若者を中心にモノづくりが疎まれ、技術・技能を備えたテクニシャンが不足する事態になっている。そのため国外からの移民労働者が、抜けた穴を埋めているのが実情。そこで、モノづくり現場の様々な情報―ビッグデータを集積・分析することでアナログ技術(記憶)をデジタル技術(記録)に変え、トップダウンによる仕組みづくりを目指している。

日本はボトムアップ型

それに対して日本は、現場作業者の技能を大切にするとともに、社員の企業に対するロイヤリティーやモチベーション、向上心を支えにして、現場重視のモノづくりを進めてきた。日本もドイツも目指すものは等しくQ,C,Dによる顧客満足度の改善であっても、“人の心”に重きを置く日本は、ドイツとは一線を画するのかもしれない。

トップダウン型かボトムアップ型か、といってしまえば二者択一になるが、ICT技術を活用したモノづくりプロセスの大改革を行おうとすると、やはりドイツが目指すトップダウン型のIndustrie4.0が世界のデファクトスタンダードになる可能性は高い。これに対して日本は“概念づくり”や“標準化”という視点でドイツに大きな遅れを取っていることは否めない。

そんなときに使われ始めたのが「つながる工場」という金言。この言葉には、ICT技術を使ってモノづくりの現場をネットワーク化するという意味も含まれている。しかし、日本の経営者の思いはそれだけではない。“つながる”という言葉には、同業者や異業種の企業、さらには大学などと連携して“つながる”という意味合いも込められている。これは従来の下請け体質からの脱却を図り、自社商品の開発を積極的に進めたいというメーカー志向の発想と、仕事を待つ受身の姿勢から、自社の特徴を活かした提案営業を行うことで発注元の「買い手市場」からサプライヤー側の「売り手市場」へと変えたいという前向きな志向も含まれている。

つづきは本誌2015年6月号でご購読下さい。

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