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ハード重視の経営の限界

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景気が緩やかに回復する中で、企業間での業績の明暗―2極化が顕著になってきた。前年比で3~5割も売上を伸ばす企業があるかと思えば、リーマンショック前(2007年)と比べて、2~3割減で推移する企業もある。 好調企業は、安倍政権の成長戦略の一環である「生産性向上設備投資促進税制」「ものづくり補助金」などの優遇税制や制度を活用して、設備投資を積極的に行い、コスト競争力強化に取り組む企業が多い。また、新規得意先の開拓にも熱心に取り組んでいる。7~8月に都内で開催された各種公共展にも、多くの板金サプライヤーが出展した。その数は延べで50社を超え、大半は業績好調組である。

これらの企業は、これまでにも公共展に出展、自社技術や製品をPRし、新規得意先を開拓していた。しかし最近は、省エネやデータセンター、医療機器、航空・宇宙、食品機械・厨房機器など好調業種の専門展示会にターゲットを絞る傾向が際立っている。板金サプライヤー自身が自己責任と自前の費用で営業開拓したい業種・業界を決め打ちし、それに見合った製品や加工技術を出展、会場を訪れるストリートカスタマーの業界関係者、出展者に対して集中的にはたらきかけている。 例えば先端医療機器の展示会では、精密板金加工やステンレスなどの薄板材料に対して高精度・高速加工ができるレーザ加工技術を出展。また、食品機械・厨房機器関連では耐食性の高いステンレスなどを、低歪みで高品位に溶接できるファイバーレーザ溶接技術をPRする事例も増えている。

また、インターネット上のWebサイトを活用して会社紹介を行う一方、Webコンテンツとして設計開発者に精密板金加工の手順や手引きを紹介するガイダンスやオリエンテーション、板金に関してよく質問される項目をFAQ形式にして解説する板金ガイドを立ち上げるサプライヤーも現れている。中には立派な板金加工ハンドブックを制作し、Webサイトから申し込むと無料でハンドブックを提供するサプライヤーも現れている。 こうしたサプライヤーに共通しているのが、Webを利用して会社紹介をするのではなく、加工技術を紹介をしている点だ。さらに、社長や工場長が、スマートフォンからもアクセスできるブログやTwitter、Facebookを通じ、親しみを醸し出し、モノづくりの仲間を集めるといったアクションに取り組むところも増えている。総じて業績好調組には余裕があるのか、積極姿勢が見受けられる。

これまでサプライヤーの企業価値は、安くて良いモノを速くデリバリーするというQ,C,D対応力に優れ、顧客満足度を最大化することにあると思われていた。しかし、発注元大手企業の適地適産、最適調達という調達方針に対応したサプライチェーンが構築され、工業製品自体のコモディティ化が進むようになると、こうしたハード重視の考え方だけでは差別化は難しく、企業としての付加価値も薄くなってしまった。そこで、デザイン、ブランドなどソフト面の付加価値で企業価値を高めようと考える経営者が増えてきた。そうした経営者が公共展への出展で、ストリートカスタマーに足を止めさせるアイキャッチの加工製品やパネルをブースに展示、営業開拓を積極的に進めたり、Webサイトを通じた企業認知度の改善に取り組んだりするようになっている。 こうした取り組みを行っている企業はまだまだ少ないが、経営者の若返りにより暫時増える傾向にあり、これまでのような、継続取引の中で顧客満足度を改善するという考えでは限界が見えてきている。 企業業績の明暗を分ける分水嶺が、こうした取り組みや考え方にあるようだ。

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