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2本の矢が尽きた日本経済と不安を抱えた世界経済

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景気の先行きに警戒感が広がってきた。特にシーア派、スンニ派の宗教戦争の様相を呈しているイラク・シリア情勢に加え、イスラム過激派「イスラム国」による相次ぐ欧米人人質の処刑によって、米国によるイラク・シリアへの空爆が拡大。フランスも強硬な姿勢を打ち出し始め、中東情勢は予断を許さない。また、ウクライナ東部をロシア領土に編入したことで、ロシアに対する欧米の経済制裁強化が進行。一方ロシアは、天然ガスや石油の禁輸、さらに欧米航空会社のロシア領空の通過を制限する対抗策をちらつかせ、欧米とロシアの関係はかつてない険悪なムードになっている。

さらに英国では、連合王国の一角であるスコットランドが英国からの独立の是非を問う国民投票が9月に行われ、スコットランドの独立は僅差で否決されたものの、火種を抱えることになった。欧州はもともと、神聖ローマ帝国、ハプスブルク家などによる統治が長年続く中で、地政学※的には言語も異なる様々な諸侯が、闘いを繰り返しながら連合を図ってきた歴史がある。現在のEUもそういう意味では連合国家であり、その一角が危うくなると経済も崩れる危うさを備えている。それだけに、今回の一連の騒動で4~6月期の欧州経済はゼロ成長となり、昨年4~6月期以降続いていた回復基調から一転、先行きが懸念される。

2年後に大統領選挙を迎える米国は、11月に中間選挙を控え、オバマ大統領の出身母体である民主党の苦戦が伝えられている。製造回帰により設備投資が堅調で、9月の失業率も5.9%まで改善しているが、中間選挙の行方、中東情勢の悪化によっては経済にブレーキがかかることが予測される。

中国は、7~9月期のGDP成長率が5年半ぶりの低水準となり、中国共産党内の権力闘争も報道される中で、景気への警戒感が広がっている。グローバルに見ると、世界経済の動向に関しては良い指標は見つからない。

国内に目を転じると、アベノミクスの3本の矢のうちの2本、「財政」と「金融」の政策はもはや立ち行かぬ状態になった。日銀は金融緩和策の一環として、2度に渡って短期国債をマイナス金利で市場から買い入れた。しかし、金融緩和によって銀行に金を回しても、借り手がない状況に変化はない。また、財政投入によって公共事業を活発化しているが、人手不足、資材不足も重なって、2013年度に持ち越された未消化工事高は26兆円を超えるまでになっており、公共土木事業でその傾向が一段と強まっている。「金融」「財政」の矢は尽き、刀は折れようとしている。

第3の矢として期待される「成長戦略」も、中味は薄く、期待されるほどの成果は上がっていない。しかも、景気を下支えするといわれている民間設備投資も、投資促進税制や各種補助金で賄われている部分が多く、国の助成策が終了すれば一気に収縮する可能性がある。たしかに2020年の東京五輪や国土強靭化に対応して、今後200兆円以上ともいわれる財政を投入する、と与党自民党は息巻いているが、未消化工事高が増える中で、それが確実に消化される保証はない。バラマキをやれば結果として国債発行に歯止めがかからず、国民1人あたりの借金がかさんで、子や孫の世代に多額の借金を背負わせるだけになる。

すでに世界の機関投資家やアナリストは、こうした日本経済のファンダメンタルを疑問視し始め、円売りを加速している。

我々は目の前にある危機を認識して、これからの経営を考えていかなければならない。経営者には、これまで以上に地政学に長けた世界観、潮目を観る魚の目が必要になっている。

※地政学 地理的な位置関係が政治、国際関係に与える影響を研究する学問。

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