現場発の成長戦略の必要性
東大大学院教授・東大ものづくり経営研究センター長・藤本隆宏先生の話
『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫
現場・現実から日本のモノづくりを見る
東京大学大学院経済学研究科教授で、東京大学ものづくり経営研究センター長、一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事を務められている藤本隆宏先生とお話をする機会があった。
藤本先生は東大卒業後、三菱総研に入社。サラリーマンを経験された後にハーバード大学へ留学、同大学で上席研究員を勤められた後に帰国、独立行政法人経済産業研究所でフェローなどを歴任されてから、東大大学院経済学研究科教授となられた。藤本先生の研究テーマとなったのが「トヨタ生産方式」など、戦後日本の製造企業が構築してきた生産品質管理(TQC)に象徴される「統合型生産システム」。とりわけトヨタ生産方式を深く研究され、現場の改善活動の重要性を指摘されている。研究室にいるよりも製造現場に出向いて現場・現実をつぶさに見聞きして、研究されてきた現場主義の研究者である。
工学系出身ではないが、現場ではプロにも負けない知識を持っておられ「付加価値が生まれるところ=現場」を「明るい現場」に改善して、「良い現場を日本に残す」ことをしなければならないと、いろいろな場所で話されている。
東西冷戦構造の中で発展してきた日本
1980年代までの日本は、東西冷戦構造という緊張した世界の中で、米国という巨大市場に向けた製品を次々に開発、送り出して外貨を稼ぎ経済発展を遂げてきた。ひらがな・カタカナ・漢字という文字を生み出してきた日本は、富国強兵で産業振興を推進した明治政府の殖産興業施策により、洋行帰りの技術者が持ち帰った海外の文献を日本語に翻訳、技術者は言うに及ばず、現場の職工までもが図面や翻訳された文献を読みながら、加工や組立の方法を議論して、モノづくりプロセスの工夫改善を積み重ねてきた。
その結果、米国のT型フォードの生産ラインのような、大量生産では成し遂げられなかった多様なニーズに対応し、「必要な時に、必要な製品を、必要な数だけつくる」というトヨタ生産方式や、W・エドワーズ・デミング博士※によって指導されてきた品質を工程内でつくり込む品質管理手法を発展させたTQC活動を定着させてきた。
1979年にはエズラ・F・ヴォーゲル著の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という単行本がベストセラーとなり、日本はバブル経済に突入していった。1989年、ベルリンの壁の崩壊によって冷戦構造が終焉。それによって欧米と日本の先進国のみで競争していたモノづくりが一変し、メガコンペティション――大競争時代を迎えた。特に日本は13億もの人口を持つ隣国・中国という巨人に追いかけられるようになった。
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