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新入社員には現場の雑巾がけからの教育が必要

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今年も新入社員がやってきた。企業業績が徐々に回復する中で新卒採用数も増加しつつある。大卒者の就職内定率は、2月時点で82.9%と、3年連続で回復した(前年同期比+1.2ポイント)。企業による採用広報活動の解禁日が10月から12月へと遅くなり、就職活動期間が2カ月短縮した「時間短縮型就活」の第2期生となり、導入当初の昨年に見られたスケジュールの混乱は企業側、学生側ともにあまり見られなくなった。

ただ、企業側は門戸を広げてはいるものの、かなり高度な人材を求めるようになっており、求人数もさることながら、人材の質にこだわる企業が増えている。また、最近はグローバル化が進むことで、大手企業では従来の人事部を「グローバル人事部」などに改編、社内の人事交流をグローバルに行うとともに、採用枠を海外の大学にまで拡げる動きも目立ってきた。

新入社員が社内研修を終えて、いよいよ一線に配員されるこの時期には、さまざまな調査機関や報道機関が「新入社員の意識調査」を発表。その時々の世相を反映したキャッチフレーズを付けるのが慣例になっている。公益財団法人 日本生産性本部は早々と3月末に「平成26年度の新入社員は知識豊富で敏感。就職活動も手堅く進め、そこそこの内定を得ると、壁にぶつかる前に活動を終了。何事も安全運転の傾向がある。人を傷つけない安心感はあるが、どこか馬力不足との声も。どんな環境でも自在に運転できるようになるには、高感度センサーを活用した開発(指導・育成)が必要」と発表している。

最近の車では、エコロジーと洗練された自動制御能力がセールスポイントとなっている。しかし上の世代からすれば、いささか物足りない印象を持つようだ。新入社員についても、「失敗を恐れずに『当たって砕けろ』の精神でパワー全開、突っ走ってほしい」として「新入社員には、背伸びをせずに、ローリスク・ローリターンの安全運転もいいが、リスクを恐れずに、前向きに挑戦する失敗から学ぶ経験もしてほしい」と指摘している。さらに「自動ブレーキ装置は『完全』を保証する装置ではない。使う人がその特性を十分に考慮し、上手に活用して初めて真価を発揮する。新入社員も同様に、先を読む能力(高感度センサー)を活かした指導、育成(開発)をすることによって、衝突を回避するだけではなく、適切に加速(スピード自動調節)をしながら、どんな環境でも運転をしていくことができるようになるだろう」と、企業の人材育成・指導の必要を述べていた。

筆者も何人かの新入社員と話をする機会があったが、新人研修期間ということもあって、礼節をわきまえ、応答もはきはきし、ソツのなさを感じた。6年ほど前に周りの空気が読めない人のことを指した「KY」(空気が読めない)という言葉が流行したが、彼らは巧みに空気を読み、その空気を取り繕う常識は備えていた。しかし、その話しぶりは大胆さに欠け、このまま経験を積んでしまうと上澄みの知識で終わってしまう、との危機感も覚えた。

かつて、「新人教育は雑巾がけから始まる」といって、現場でのOJTが盛んに行われた時期があったが、やはり新人には現場・現物・現実から勉強してもらうためにも雑巾がけは必要だ。逞しく業界を泳いでいくには「虫の目」「鳥の目」「魚の目」の3つの目――すなわち「虫の目」は狭く深くの「部分」を徹底する現場の視点、「鳥の目」は高所から「全体像」を把握するマネジメントの視点、「魚の目」は時流を読み「流れ」を感じ取る経営者の視点――を備えることが望ましい。

未知の世界では、スマホやタブレットは情報として案内してくれるが、実体験を通して初めて習得できるものがある。それが人生の醍醐味ともいえる。

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