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求められる板金ゼネコン― 原価低減が一段と厳しく

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ロシアによるウクライナ南部クリミア自治共和国の併合を機に、冷戦時代へ逆戻りするのではないかとの懸念から株安が進んでいる。さらに、2012年以降の経済成長率が7%台と低迷する中国も、地方政府やシャドーバンクが抱える債務処理の問題など、成長を阻害する課題が山積している。

また、クリミア併合を契機に、中国との間でサービス貿易協定を締結することで、さらなる関係改善を目指してきた台湾の馬英九政権に、野党の民進党と学生たちが反発。立法院を占拠するなどの抗議行動に進展し、馬政権の支持率は10%を下回り、大きな危機を迎えている。タイではタクシン派、反タクシン派による政権争いが熾烈化。反タクシン派によるバンコク中心部の占拠などによる経済活動停滞が長期化し、カントリーリスクを嫌って、海外からの直接投資も減少している。

こうした世界の変化は日本経済、ひいては企業業績にも大きな影響を与えている。アベノミクスで上昇した株価も下げが目立つようになっており、年初の経済成長への期待もここへきて急速に萎みつつある。特に4月の消費増税により、消費財を中心とした駆け込み需要の反動で、4~6月期は個人消費を中心に購買力の低下が心配されており、少なくとも本年度上期は低成長が避けられない情勢となっている。各種の景気動向調査をみても、国内景気は上期が横ばい、本格的な回復は下期以降との判断が多くなっている。

板金業界も半導体製造装置関連が6月頃までは拡大が続くとみられていたが、大手半導体メーカーの設備見直し発表もあって、昨年12月以降の仕事量が減少している。また、医療機器をはじめとした成長業種も、期待されているほどの伸びが見られない。

しかもここへきて、発注単価の下落傾向が顕著になっている。特に目立っているのがオークションによる発注である。案件ごとに広く公開して、入札価格の安い企業へ発注するという調達方針を採択し断行する企業が増えてきている。発展途上国の経済発展により、工業製品のコモディティ化はさらに進展し、一物一価の考えは今や資材調達の常識になっている。

こうした最適調達によって、サプライヤーの原価低減努力は、「乾いたタオルを絞る」ともいわれるような徹底したものになっている。そうした努力を怠れば、従来からの継続取引先であっても容赦なく切り捨てられるドライさで、「長年の付き合い」「お互いさま」といった都合の良い言葉は遥か彼方のものとなった。

報道されているように、ソニーは2013年までに、それまで世界で5,000社あった取引先を、段階的に1,000社にまで減らしてきたが、ここへきて2018年までにさらに絞り込み、250社とする方針を発表した。集約された発注先への大量発注によるコスト削減が目標だが、そのほかにも発注先とのコラボレーションエンジニアリングをさらに強化して、新製品の構想段階からサプライヤーを参加させ、企画段階で商品の特性に必要な機能・性能の課題とともに、徹底した原価・品質のつくり込みを目指すという。

こうした要求に対応するためには、サプライヤーにも構想段階からのデザインレビュー(DR)に参加できる能力を備えることが求められるとともに、量産段階でのコスト競争力強化が必要となっている。

筆者は日本の板金業界に必要なのは「板金ゼネコン」であると20年ほど前から指摘してきたが、いよいよこの「板金ゼネコン」が現実味を帯びてきた。むろんゼネコンの周囲には専門的なスキルを備えたサブコンが必要になるので、板金企業のすべてが板金ゼネコンを目指す必要はない。しかし、潮目の変化として「板金ゼネコン」型企業が求められてきているのは確かだ。

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