板金論壇

願わくは花の下にてモノつくらん

日本の「明日咲く花」を信じて

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫

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願わくは花の下に

私の好きな歌で、桜の季節が巡って来る度に口ずさむのが、西行法師が残した「願わくは花の下にして春死なん、その如月の望月の頃」である。桜好きの日本人にはたまらない歌です。

仕事柄、全国をまわるが、それでも桜の名所といわれる処の花時にはあまり行けていない。季節や出張先にも恵まれて、見ることができたのは京都・円山公園の枝垂桜、岐阜県・根尾谷の薄墨桜、そして圧巻は奈良県・吉野の桜である。吉野の桜は下の千本、中の千本、上の千本というように、山裾から山頂に向かって山全体が桜色に染まる景色がなんともいえず、ただただ、すばらしかった。宇野千代の描いた幽玄そのものの薄墨桜も、満開の時には出会えなかったが心に残る風景となった。

しかし、どうして日本人は、これほどまでに桜に愛おしさを感じるのだろうか。蕾の頃から日々心待ちして、やがて一輪ほころび、そして満開。散るまでの10日ほどの間は、ウキウキして心が躍る。通勤途上で春を知らせる身近な花は、辛夷(こぶし)から木蓮(もくれん)、山茱萸(さんしゅゆ)、桃、そして庭に咲く土佐(とさ)水(みず)木きの類。そして桜、三つ葉つつじで春の終わりを知るというのが長い間の慣習となっていた。この時期ほど日本の四季のすばらしさを感じさせてくれる季節はない。こうした自然の景色を通して日本人の感性は豊かに磨かれ、四季のすばらしさを通してあふれる情感を培うことができるのだろうと思う。

日本が誇るモノづくり―技術・技能の伝承を

いつもの論壇とは趣が異なる出だしとなってしまったが、最近いろいろな方々とお話をして痛感するのは、こうした環境で育まれる日本のモノづくりは世界に誇れるものであり、日本の将来には夢も希望もいっぱいある、ということである。

最近、スイスと日本を行き来している、一線をリタイアされた経営者の方とお話をする機会があった。スイス滞在中はアルプスの見える景観豊かな別荘で暮らしておられるということだったが、その方が言うには、欧州のモノづくり力は退化してきており、一人勝ちしているドイツも蓋を開けてみれば欠陥だらけで、ベンツやBMWの車も不具合の発生率が年を追うごとに上がっているという。モノづくりの現場では、東欧やトルコから移民してきた外国人労働者に頼ってきたために、マイスター制度によって継承されてきたドイツ人の技術・技能が拡散し、現場力が低下してきている。その結果、モノづくりの現場力では日本が一歩抜きん出ており、日本品質への期待と、それを支える工作機械などの生産財に対する信頼は高いとも言われていた。

この意見には反論もあるだろうが、私がお会いしている方々の中では最近、こうした指摘をされる方が増えてきている。むろん、少子高齢化によって人口減少が進む日本が、同じ轍を踏まないとは限らない。それだけに、ここでもう一度、現場力の強化、技術・技能の伝承を考えていくことが必要だ。

つづきは本誌2014年5月号でご購読下さい。

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