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ビジネスに必要な「一眼、二足、三胆、四力」

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白刃の日本刀に触れる機会があった。安土桃山時代に鍛えられた日本刀で、「出雲守なにがし」という、刀匠の銘が打たれた由緒正しき日本刀とのこと。中学校の体育の時間に竹刀を握った経験しかなかったが、鞘から抜いた真剣を正眼に構えると、自然に背筋もピンと立ってくるから不思議である。真剣の重さたるや、両手で持ってもずっしりと手ごたえを感じる。

脇差も併せて見せていただいたが、これら大小を腰に差して馬に乗り、戦った武士(つわもの)は、さぞや大変だったのではないかと感じた。

小学校時代から今日までずっと剣道をやっている友人がいる。彼はよく、剣道を通じて学ぶ「心」の話をしてくれた。

剣道を修行する際に、重要な事柄を述べた古人の教えがあるとして、ずいぶん前にコピーしてくれた「一眼、二足、三胆、四力」という文章が私の手元にある。第一に相手を見る目、第二に足さばき、第三に胆力――すなわち何事にも動じない強い気持ちや決断力、第四に力――すなわち技を発揮する身体能力が重要という教えである。

「一眼」とは、剣道において一番大切なのは眼。相手の思考や、動作・技の起こりばなを見破る眼力で、状況を判断するための情報をいち早く見つけ活かす洞察力である。相手と対峙したときには、まず相手の思考や動作を見破る眼力(洞察力)が大切だという。「二足」とは、見取り稽古に「技ばかり見ずに足を観よ」という教えがあるように、小手先の竹刀操作ばかりの技よりも、腰・体の入った打ち込み、つまり足の踏み方・踏み込み――引き付け足や送り足、開き足などの足さばきが重要であるとしている。「三胆」の胆は胆力である。不動心、度胸、落ち着き、冷静さの重要さを示している。そして最後に「四力」。これは思い切った技、およびその技を発揮する体力や筋力などの身体能力のことだ。技を行うための体力や筋力などの身体能力を鍛えておくことが重要だという。

昔から剣の道は人の道に通じると言われている。前号で胆力の重要性を書いたばかりだったので、真剣を握った夜、帰宅して改めてこの文章を思い出し、剣道を歩んできた友人のことを思い出した。

彼は大手製薬会社のプロパーとして販売担当の理事にまで昇任したが、取締役手前で会社を辞めてしまった。辞めた理由は語らなかったが、「業界人を卒業して、これからは剣道と囲碁を楽しみたい」と退職の挨拶状に書いてきた。そしてその年、四国八十八カ所巡礼の旅に出かけ、ほぼ1年をかけて結願、柔和な顔になって同窓会に現れた。今は、孫の世話や碁会所巡り、剣道の稽古で充実した日々を送っている、と今年の年賀状にも書いてきた。

「剣道をやっていると、打ち合う相手の筋が見えてくる」と友人は語っていたが、ビジネスでも同じことがいえるのではないか。相手の出方を見ながら「一眼、二足、三胆、四力」で対応することによって、ここぞという一番勝負に勝つこともできる。

最近は義務教育でも剣道を教えることは少ないようで、竹刀や面や篭手などの道具を担ぐ学生を電車で見る機会も少なくなった。しかし、竹刀を構えて相手と向き合い、打ち込む間合いなどを考えることによって、ビジネスでも生かせる経験を学ぶことができる。「話すときには相手の目を見て話しなさい」とは良く言われたものだが、これなども『一眼』につながるものであり、相手の目を見ることによって、自分の立ち位置や相手との間合いが見えてくるとともに、相手に自分の真摯な姿を見せることができるのではないだろうか。

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