〜視点〜

“Made by Japan” と “Made in Local” 国内空洞化の危機




  板金業界では経済危機に伴う受注落ち込みに対応するため、雇用調整給付金制度を活用して、一時帰休を行う企業が増えている。昨年12月以降の受注は一部の業種を除くとほぼ半減しており、半導体・FPD製造装置関連業界を主力とする企業では90%以上、受注が落ち込んだところもある。各社とも損益分岐点比率を引下げる努力をして操業度維持に取り組んでいる。しかし、こうした受身の対応では体力勝負となってしまい、体質の弱い企業の中には淘汰されるところも出始め、企業倒産が増える事態も心配される。こうした受注環境が以前の水準に戻るとは考えにくく、業界関係者の中には「パラダイムシフトが起きていることは理解できるが、新しいパラダイムの中で板金業界が開拓できる仕事量がどの程度あるのか、またそれが自社の設備力で対応できるのか分からない」と先行きへの不安を語る経営者も多い。限られた資金を使って公共展に出展し、ビジネスチャンスを増やしたり、新産業として期待されるクリーンエネルギー関連のショーの会期中、会社案内や加工サンプルを携えて総歩きしたりする企業も現れている。また、操業が減って空いた時間を利用して、それまで掲出しても、なかなか更新ができなかったインターネットHPのコンテンツを刷新する動きもみられ、新しい取引先を開拓するための、あの手、この手、の営業努力を行う企業も目立って増えている。しかし、ここで考えなければいけないのが鉄道、クリーンエネルギー、環境など、注目される産業が日本で開発・製造を行って海外へ輸出する、かつてのビジネスモデルの再現を本気で考えているのか、という問題である。1カ月ほど前にあるテレビ番組が世界中で進む鉄道事業のビジネス拡大に対応する日本の鉄道車両業界を特集していた。番組でキーワードになったのが“Made by Japan”。日本の開発力と信頼性の高い生産技術力で開発・製造された鉄道車両を受注しても、日本メーカーの管理で適地生産し納入することで、日本企業はグローバル競争に勝ち残れるが、それが必ずしも国内での仕事量、雇用確保につながるものではないという指摘がなされた。経済危機で各国が保護主義に走れば「Buy American法」のように国産品採用の動きが強まる。そうなれば受注金額の60〜70%は生産する国に落とさなければならないので、日本で製造して輸出するということは考えにくくなる。むろんコア・テクノロジーに関連するため、日本で調達される部材もある。しかし、鉄道車両市場が拡大することと日本で発注される車両関連の仕事が増えることとは必ずしもイコールではない。結果として量産は適地生産、開発・試作を日本で行うという傾向は、ますます強まると想定しなければいけない。そうなれば内需関連の仕事を除くと、国内で見込めるのは開発・試作に関連したビジネスに限られる。1995年に円が1ドル79円を付けた頃から円高に対応して日本企業がいっせいに海外生産を強化したために国内産業の空洞化が危惧された。一時的にはその影響は深刻なものとなったが、その後、移転した仕事が日本へ回帰、空洞化は労働集約型産業を除くと懸念で終わった。しかし、今度はそういうわけにはいかない。内需振興を進める中国の製造力は一段と強化され、エマージング市場でも10年1日で製造基盤整備が進み、量産化に伴うインフラは十分に整備されている。それだけに今回のパラダイムシフトによる空洞化は本格的になると考えざるを得ない。板金業界としては試作・製造立国として生き残るためには、どうしなければいけないのかを真剣に考える時を迎えている。