〜視点〜

世界の機関車、 アメリカと中国




 1月20日に第44代アメリカ大統領に就任したバラク・オバマ大統領の就任パレードには全米から200万人にもおよぶ人々が首都ワシントンを訪れ熱狂的な歓迎を行った。しかし、翌日の報道を見るとパレードを見るために集まった人々の多くが共和党の支持母体でもあった中間階層以外の人が多かったようだと伝えていた。その後もオバマ大統領は金融安定化法案を審議しているさなかに公的資金注入を受けたウォール街の銀行、証券会社が経営者や会社幹部に多額の賞与を支払っている件についてテレビマイクの前で「恥知らず」と発言するなど、これまでの共和党政権下で経済を支えてきた経済界のリーダーたちからは冷めた目で見られている感触が伝わってくる。新政権が策定した金融安定化法案をはじめとする総額8,200億ドル(74兆円)におよぶ景気対策法案は民主党が過半数を占める下院ではすんなり可決されたものの、共和党が過半数を占める上院では法案の修正や減額が議論され、予定していた2月16日までの可決がおぼつかなくなった。そこで大統領は2月5日付けのワシントンポスト紙に「アメリカ国民が必要とする行動」と題して寄稿、現状に強い危機感を表明するとともに、景気対策法案の早期成立を議会に求めた。法案成立が遅れ、何も行動しなければ景気後退は数年におよぶおそれがあり、「500万人以上の雇用が失われ、失業率は2ケタに達し、アメリカ経済は“Catastrophe(大災害)”になるだろう」との見方を示した。法案はその後、可決された。新大統領の評価は就任後100日で決まるとも言われる。「ミラクルメーカー」と呼ばれるオバマ大統領ですら就任前から掲げてきた新たな雇用創出を図るというシナリオの見直しを迫られそうな雲行きである。また、アメリカ国内ではサブプライム問題よりも影響が大きい「クレジットクライシス」に対する危機感が強まっている。アメリカの多くの家計は、クレジットカードやローンで購買する生活を続けてきた。そのクレジットカードが信用収縮で神通力を失ってしまった。その総額は1兆ドル(90 兆円)とも言われ、ここでクレジットクライシスが起こればCatastrophe が現実のものとなり、世界経済の大不況が来る。
 そんなアメリカで唯一明るい話題が、カリフォルニア州のシュワルツェネッガー知事などが推進するカリフルニア新幹線計画である。世界の機関車、アメリカと中国2030年までにサンフランシスコ、ロサンジェルス間を時速350kで結び、年間で1億1,700万人が利用する新幹線計画の総事業費は450億ドル。その建設費の一部99億5,000万ドルの債券発行が住民投票で決まった。これで計画に弾みがつき、具体化することになった。すでにこの計画には日本政府やJR東海などの日本勢がカリフォルニア州を訪れ協力表明を行っており、景気押し上げ効果も含めた期待が高まっている。地震の多い地域を高速で走行する新幹線だけに地震国日本で開発された新幹線が採用される可能性は高く、車両業界からも受注への期待が高まっている。
 一方で4 兆元の公共投資が始まった中国では鉄道車両、住宅、電力産業に関連した企業から設備の先行発注の動きも見られ始めている。4 月6 日から北京で開催されるCIMT(China International Machine Tool Fair)には中国企業をターゲットに、国内外の工作機械メーカーが大規模な出展を計画している。世界経済を支える機関車の両輪であるアメリカ、中国の経済の動向を注目したい。