〜視点〜

「働くこと」の価値観を考えた雇用問題の議論を




 1月8日に帝国データバンクが発表した「雇用調整に関する企業の動向調査」によると、今回の景気後退で4社に1社が雇用調整を実施する考えであることが分かった。年末から年明けにかけてのテレビや新聞は連日のように派遣労働者や期間労働者など、いわゆる非正規雇用労働者が景気後退の影響を受けて大量に契約を解除され、住む所もなくして困窮している様子を報道し続けていた。職場のみならず、住む所までなくしてしまった労働者の方々にとっては切実な問題だろう。その結果、製造業への派遣労働を認めた現行の労働者派遣法を改正して製造業への派遣労働は認めないようにしようという意見も出ている。しかし、海外企業のようにレイオフ(一時帰休)などの実施が難しい日本では、景気変動へのバッファーとして派遣労働者をはじめとする非正規雇用の制度は国際競争を勝ち抜くうえで不可欠であり、契約解除となった場合のセーフティーネットをどのように完備するかを論議すべきである。フリーターと総称される若者が増えていった事実を含め、働き方の選択ができることが重要である。正規雇用か、非正規雇用かという二者択一で考えることには異論も多い。製造業では景気変動へのバッファーとしてアルバイトや外国人研修生などの非正規雇用労働者を採用する動きが2000年のITバブル崩壊以降に増加、2004年4月の労働者派遣法改正で製造業への派遣労働者が認められると派遣を受け入れる企業が増加した。しかし、こうした非正規雇用の労働者が増加するとノンスキルドワーカーが増えることから、人材育成という観点からはそれまで企業が続けてきた技術・技能の継承が途絶えることを危惧する声もある。
 少子高齢化が進み、製造業への人材流入が減少傾向を示す中で、「労働」に対する価値観は目まぐるしく変化するようになっている。今回の金融危機により発生した非正規雇用労働者の問題は、日本の産業構造のパラダイムシフトに大きく影響されている。目先の対策も必要だが、それ以上に根本的な議論が必要である。すでにアメリカはオバマ新大統領のもと、グリーンニューディール政策を進めることで500万人の雇用創出を打ち出している。日本でもエネルギー、環境、食料、医療などといった新産業分野を中心に大胆な雇用対策を立案する必要が出てきている。労働に関連して年金や健康保険など、国民の「安心」を保障する制度は「働くこと」の価値観を考えた雇用問題の議論をパラダイムシフトによって今後、劇的に変化することが明らかであり、働き方も含め、「働くこと」に対する価値観を議論する必要がある。
 そんな中で、労使で議論が始まっているのが「ワークシェアリング」。働く意欲を持った労働者の労働機会を増やすために、限られた労働時間をシェアして雇用を維持するという考え方だ。しかし、すでにワークシェアリング的な働き方をしているタクシー業界(1台のタクシーを何人かのドライバーがシェアして使う)などを見ると、ドライバーの車に対する愛着の度合いやインテリアに対する嗜好がまちまちで、必ずしも乗客が満足を得られているわけではない。俺の車、俺の道具、俺の機械、俺の職場というように、働くことにロイヤリティーを持たせることがモチベーション改善には役立つ場合もある。車や機械、職場をシェアすると、働くことへのアイデンティティーが失われるという心配もある。それだけに雇用問題はさらに真剣な議論を繰り返していく必要がある。