〜視点〜

“CHANGE CAN HAPPEN”― オバマ新大統領に学ぶ




 “CHANGE CAN HAPPEN”をスローガンに大統領選挙に勝利した民主党のバラク・オバマ氏は、1月20日の大統領就任式で正式に第44代大統領に就任し、建国以来はじめてのアフリカ系アメリカ人の大統領となる。世界同時不況が進行する中で、その震源となったアメリカ経済の建て直し、イラク、アフガン情勢をはじめとしたテロとの戦いなど、新大統領を取り巻く状況には厳しいものがあり、大統領就任演説でどのようなメッセージを発信するのか期待されるところである。
 オバマ新大統領が民主党の大統領候補としてヒラリー・クリントン上院議員に勝利し、マケイン共和党候補との一騎打ちに圧勝した理由として全米のメディアがこぞって挙げているのが、インターネットによる「空中戦」と、200万人と言われるボランティアの草の根活動による「地上戦」、その両方を制したということである。インターネットは4年前の大統領選で民主党、共和党両陣営がはじめて選挙運動に活用したが、オバマ陣営はその教訓に学び、早々とBarackObama.comというキャンペーンサイトを立ち上げるとともに、SNS(ソーシャルネットワークサービス)と呼ばれるサイト―中でも全米の学生向けに立ち上げられたFacebookと動画共有サービスYouTube―を積極的に活用し、オバマ候補の選挙キャンペーンを行った。立候補当時は知名度や資金力の面でヒラリー・クリントン上院議員に圧倒的な差を付けられていたが、選挙戦が進むにつれて支持層を拡大した。しかも、資金集めにも積極的にインターネットを活用。献金の1/3をインターネットで集め、2008年にオバマ氏が集めた献金の総額は10億ドル、1千億円にものぼると言われている。しかも、SNSを通じてオバマ候補を応援する草の根ボランティアの数は200万人。彼らがインターネットのブログでオバマ候補支持を次々に明らかにするとともに、献金してくれた支持者の自宅を1軒1軒訪問し、地域でミニ集会や各種イベントを開くなどして選挙を盛り上げていった。
 オバマ候補自身はメディアを通じて“CHANGE CAN HAPPEN”をうったえた。空から、陸から、あらゆる機会を通じてオバマ候補の主張をPRすることで圧倒的な勝利を手にすることができた。すでにIT業界ではオバマ候補のインターネットを使った選挙活動を徹底分析し、ビジネスモデルとしてB to B、B to C に活用しようとする動きも見られ、各メディアもその戦略、戦術を分析し紹介し始めている。
 アメリカでは全人口の25%がインターネットを使って政治情報を入手すると言われ、35歳以下ではその割合がさらに高まり、新聞よりも多くなると言われている。それだけにマスメディアも飲み込んだ今回の選挙活動がこれからの政治、経済の活動に大きな影響を与えることは間違いない。日本でもYouTubeの日本語版サイトが立ち上ったのをはじめ、SNSサイトmixiも会員数を増やしており、商品キャンペーンの一環としてこうしたサイトを活用する企業も増えている。
 総額2兆円の定額給付金をめぐって混乱する日本と新大統領の誕生に沸くアメリカとの間に大きな落差を感じているのは筆者1人だけではあるまい。バラク・オバマ新大統領はITを活用した新しいビジネスモデルの発信者としてこれから名を残す可能性がある。政治家としての手腕もさることながら、44才という若さで世界経済を大きく“CHANGE”してほしいものである。2009年は、1月20日のオバマ大統領就任式で本格的に始動するような気がする。