視点

従業員満足度アップで顧客満足度を改善

LINEで送る
Pocket

最近はオンラインよりも直接取材が増え、感染対策をしながらお客さまを訪問している。その際には“withコロナ”に対応した各社の対応策やアフターコロナで成長が期待される産業について質問を受ける。そのやりとりの中で、「従業員満足度」を向上させることが「顧客満足度」の改善につながると考える経営者が増えていると感じた。

こうした話はリーマンショックの時にはあまり話題にのぼらなかった。当時はむしろ「どうしたら不況脱出をはかれるか」という視点から、時にはリストラによって固定費を削減しようとする経営者も多かった。

ところが今回は、政府の緊急経済対策により雇用維持のための手厚い補助金が盛り込まれたこともあって、リストラの話を聞くことがほとんどなかった。新型コロナウイルスへの感染を予防する観点から、重症化リスクが高い65歳以上の高齢の従業員を中心に、雇用調整助成金を活用して一時帰休や交代勤務制で対応する企業が目立った。人手不足という環境が反映されていることもあり、雇用を維持しながら苦境からの脱出を目指そうとしていた。

そうした経営者に共通していたのは、企業が継続して成長するためには、顧客満足度の改善に努め、顧客にとって必要な企業として認知してもらわなければならない。そしてそれを実現するためには、自社の従業員満足度を改善しなければならない ― という考えを持っていることだ。

顧客満足度とは、自社の製品・価格・サービスが顧客にどれくらい満足されているかを指す。ところが、市場の成熟化、製品・サービスのコモディティー化、グローバル化による「一物一価」の調達方針による競争激化などにより、製造業を取り巻く環境は大きく変化した。製品の価格・品質・サービスの満足度にフォーカスしただけでは、競争に勝つことが難しくなってきた。顧客にとって必要なサプライヤーとして認知してもらうためには、調達からアフターフォローまでのあらゆる段階における満足度の向上が求められるようになっている。

そうした状況で「従業員満足度の改善が重要」という認識が経営者に顕著になっている。従業員満足度が高いと従業員の自発的な取り組みが生まれやすくなり、結果的に顧客満足度の向上につながる。やる気のない従業員より、やる気のある従業員の方が労働生産性も高い。生き生きと仕事に取り組む従業員が多くなれば、顧客に対する接しかたも自然と変わってくる。

ただ、従業員に対する過剰な要求はプライドを傷つけることもあり、企業に対するロイヤリティーの欠如を招けば離職につながることもある。「従業員満足度の向上」イコール「顧客満足度の向上」という好循環につなげるための取り組みが、経営者の間で行われ始めている。その一歩として「従業員エンゲージメント(愛着心・思い入れ)」 ― 「従業員と企業が二人三脚で同じ未来を描けているか」をしっかりと見直そうとする姿勢が強くみられ始めている。

そして、時代の変化に対応した新たな企業理念を策定する際に、従業員から会社に対する意見や要望を聞く機会を設けたり、仕事に対するやりがいなどを尋ねたりするケースもある。

ある企業では専務が中心となって、これからの「脱炭素社会」に対応したSDGs(持続可能な開発目標)の達成を念頭に、自社製品開発を行うためのビジョンづくりを行う過程で「従業員満足度No.1の企業になること」を目標に掲げていた。

2代目経営者、3代目経営者への事業承継が進んできたこともあるが、経営者の意識がコロナ禍を通して大きく変化してきたことを感じる。

LINEで送る
Pocket

関連記事

視点記事一覧はこちらから