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「2020年版中小企業白書」

中小企業白書の最大のテーマは“付加価値の創出”

コロナ禍で生き残るため、付加価値向上へ新たな行動を

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変化の中にみるビジネスチャンス

新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大は、従来当たり前とされてきた価値観を見直す契機になっている。その結果、きびしい局面をむかえる業種もある一方で、テレワークやリモート化、ネットワーク基盤の強化、Eコマース、クラウドシフトなどのDX(デジタルトランスフォーメーション)の需要がさらに強まり、ITサービス企業は事業機会の拡大が加速している。

ほかにも、「非対面」や「無人化」のニーズ、「サステナビリティ志向の拡大」など、新型コロナがもたらした価値観の変化にともない、新たなビジネスチャンスが生まれている。

コロナ禍において中小企業白書を経営判断の根拠に

今後の事業戦略の方向性を考えていくうえで、指針のひとつとなり得るのが「2020年版中小企業白書・小規模企業白書」(以下、白書)である。

今回の白書では、中小企業・小規模事業者に期待される「役割・機能」や、それぞれが生み出す「価値」に着目し、経済的な付加価値の増大や、地域の安定・雇用維持に資する取り組みを調査・分析している。また、新型コロナの影響や、中小企業・小規模事業者における具体的な対応事例も掲載している。

新型コロナ対策:資金繰り

足もとでは、新型コロナの収束が一向に見えない中、企業は地域や業種を問わず苦しい状況に置かれている。

全国1,050カ所に設置している新型コロナの相談窓口には、3月末までに30万件ちかい相談が寄せられ、ほぼすべてが資金繰り関連の相談だった。業種は、飲食業(28.5%)と製造業(21.5%)の2業種で半数を占めた。6月初旬時点で、相談件数は160万件超に達している。

操業停止や休業により売上が計上できない場合、給与等の固定費は現預金等の手元資産から拠出せざるを得ない。流動性の高い手元資産(現預金・受取手形・売掛金)と固定費(従業員の給与・不動産賃貸料など)の比率から、手元資産が年間固定費の何年分に相当するかがわかる。財務省の「法人企業統計調査年報」によると、2018年の全規模・製造業では平均2.22年分、資本金1,000万円未満の製造業では平均1.02年分となっている。

急速な景気後退や信用収縮局面では、どの企業にも「資金繰り破綻」のリスクがつきまとうため、短期的には資金繰りを重視した対応が重要となる。

新型コロナ対策:テレワーク

白書では、新型コロナ対策の基本方針として、テレワークの推進を訴えた。

東京商工会議所が東京23区の中小企業を対象に5月29日から6月5日まで行った調査によると、「テレワークを実施している」と答えた企業は67.3%で、26%にとどまった前回・3月の調査と比べて2倍以上に増えている。

ただし、従業員の規模別に見ると、300人以上の企業は90%が実施しているのに対し、30人未満の企業は45%で、規模が小さいほど導入が進んでいないことがうかがえた。

中小製造業においてもテレワークを適用できる領域はある。間接部門はもちろん、直接部門であっても、目の前にモノがないとできない仕事以外は、すべてテレワークが可能だと考えられる。他社の成功事例や助成金・補助金の活用なども視野に入れて、感染拡大の第2波に備え、新たな働き方に挑戦することが求められている。

BCP策定の重要性:パンデミックを想定したBCPも

白書は、感染症を含むリスクの影響を可能な限り小さくするため、事前の備えとして、事業継続計画(BCP)を策定することが重要であると強調している。大企業に比べて中小企業のBCP策定は進んでおらず、策定済みの企業はわずか12%、現在策定中を含めても19%しかない(図1)

画像:中小企業白書の最大のテーマは“付加価値の創出”図1:規模別に見た事業継続計画(BCP)の策定状況

新型コロナの感染拡大により、製造業の価値観・働き方は大きな転換期をむかえている。製造業は日本の基幹産業であり、「匠の技術」と表現されるような職人技は、日本の技術力の象徴として、もてはやされてきた。しかしその一方で、ベテラン職人の長年の経験と勘による技術・ノウハウに頼っている状況は、属人化が進んでいるリスクの高い経営状況ともいえる。

現在の状況は、いつ誰が新型コロナに感染してもおかしくない。属人化が進んだ工場でベテラン社員が感染した場合、生産が止まってしまい、事業継続性が危ぶまれる。このような状況を避けるため、事前に手を打っておく必要がある。パンデミックを想定したBCPの策定および属人性の排除生産性向上の取り組みが必要である。

中小企業の新陳代謝:廃業増加の中で喫緊の課題

経済成長のためには、個々の存続企業が生産性を高めるだけでなく、生産性の高い企業の参入や生産性の低い企業の退出といった「新陳代謝」がはかられることも重要になる。

白書によれば、国内の中小・小規模企業数は1999年を基準に減少し続けており、2016年以降は毎年4万者以上の企業が休廃業・解散しているという(図2)

画像:中小企業白書の最大のテーマは“付加価値の創出”図2:休廃業・解散件数の推移

特筆すべきは、そのうち60%以上が直前の決算期で黒字であったことである。白書では、生産性の高い企業が廃業に至っている現状を踏まえ、経営資源の引き継ぎの大切さを指摘している。培ってきた技術や従業員といった中小企業の貴重な経営資源を引き継ぐことができれば、次世代の意欲ある経営者にとっては大きなチャンスとなる。先代が残した有形無形の「稼ぐ力」を活用すれば、新たなビジネスモデルをつくりあげ、経営合理化にも踏み切れる。

事業承継の形態は、依然として「同族承継」の割合が最も高いが、全体に占める割合は年々減少している。近年は「内部昇格」や「外部招聘」の割合が増加傾向にある。また、中小企業が比較的低コストで活用できるオンラインのM&Aマッチングサービスなども紹介されている。

このまま廃業が増え続けると、「2025年までの累積で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる」という中小企業庁の試算がある。コロナ禍を受けて廃業が増えると、現実にはさらに悪化する可能性がある。

事業承継は企業の未来戦略である。企業が培ってきた貴重な経営資源をムダにすることなく利活用していくことが喫緊の課題となっている。

つづきは本誌2020年8月号でご購読下さい。

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