視点

自然の理にそって物事を考えることを教える「水五訓」

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戦国時代の軍師、黒田官兵衛が残したとされる言葉で、現在も多くの企業経営者の座右の銘となっているのが「水五訓」である。

一、自ら活動して他を動かしむるは水なり

二、障害にあい激しくその勢力を百倍し得るは水なり

三、常に己の進路を求めて止まざるは水なり

四、自ら潔うして他の汚れを洗い清濁併せ容るるは水なり

五、洋々として大洋を充たし発しては蒸気となり雲となり雨となり雪と変じ霰(あられ)と化し凝(ぎょう)しては玲瓏(れいろう)たる鏡となりたえるも其(その)性を失はざるは水なり

その意味については諸説あるものの、おおよそは、

一、自ら動いて模範を示す ― 率先垂範しよう

二、たとえ障害や壁があったとしても、自ら考えて道を拓くことを心がけよう

三、流れを止めることなく、信じた道に向かってあきらめることなく進もう

四、嫌いな人だからといってその人を追いやったりせずに、良いところを見つけ、ともにがんばろう

五、常に自然の理(ことわり)にそって物事を考え、与えられた環境の中で、どう柔軟に変化し成長できるかが大切

― といえるだろう。

先日取材でお会いした経営者も、この言葉を社長室に掲げていた。話がそのことにおよび、「五訓の中で今、一番大切と思われているのは何ですか?」とお尋ねしたところ、五番目を挙げられた。

「水は雲や霧など様々に形を変えていきますが、その本質は一切変化することがありません。我々もまた、変化に対応することに常に柔軟でなければいけません。与えられた環境の中でいかにして最大の努力を行い、成長できるかが大切だと思います」と、「変化の激しい現代だからこそ、“自然の理(ことわり)”にそって物事を考えることの重要性を教えられた」と話してくださった。

その経営者は創業から30余年、率先垂範を本分に猪突猛進で事業を発展されてきた。そして、お客さまから必要とされるためには何を最大化すべきかという考えを徹底、Q,C,Dの追求に全力を挙げてこられた。ところが、リーマンショックを契機に考えを改めたという。

「仕事が激減し、新たな得意先を開拓しようとしても思うようにはいかない。そこで考えたのは『その本性は水なり』という教訓でした」。水は高いところから低いところへ流れていく。下流で待っていても水が流れてくるまでには時間がかかる。それなら上流へ遡って仕事を取ろう。そこで設計提案を心がけた。

それとともに、お客さまは結果としての製品を求めておられる。ならば、工法置換を提案することが必要と考え、それまでは板金加工以外で加工されていた製品を、板金化する提案を設計提案に加えて行うようになった。その結果、徐々に新規の得意先を開拓できるようになり、危機から抜け出すことができたという。

「いろいろな困難にぶつかり、迷うことや立ち止まることがありますが、私はそのたびにこの『水五訓』を思い出し、私自身の道標にしています」と語っておられた社長の言葉が忘れられない。

経営者は座右の銘を必ずお持ちで、それを社内に掲げられている場合も多いと思います。しかし、実際の経営の中で、理想は理想、現実は厳しいとばかり、咄嗟の判断に、座右の銘の意味まで忖度できる場合は少ないのではないでしょうか。

社会情勢を見ると、下期の経営環境はますます変化が激しくなることが見込まれています。敏速な決断が求められるときだからこそ、経営者の座右の銘―判断の拠り所―が大切になってくると思います。

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