〜視点〜

製造立国としての成長戦略



師走。1年が過ぎるのは早いものである。年の初めに1年の計を立てたかと思っているうちに1年が終わってしまう。光陰矢の如しというが、時間の活用の仕方を改めて考えさせられる。
このひと月は板金工場を訪れることが多く、ことのほか忙しい月だった。しかし、お会いした経営者の方々の姿勢に感動する日々が続いた。特に今回お会いした方々の中には30代、40代の若い経営者が多く、そのハングリー精神には大いに触発された。ひとりは16歳から働き、20代で板金とは縁のないモノづくり企業を起業、1年前に板金加工業を開業した。40代前半の創業社長は大企業から脱サラ。4年間板金工場で勉強、そこで学んだ溶接の魅力に取りつかれ、板金加工業を起業した。また、32歳という2代目は、学生時代から起業家精神が旺盛で、さまざまな仕事を経験してきた。父の会社へ入社してからは「自分はこういう会社を目指したい」と周囲に宣言。有言実行で新規事業開拓や海外への事業展開など、積極的に活動していた。
彼らに共通していたのがハングリー精神。これでよいと思わずに常に前へ前へと進もうとする気持ちを持ち続けていることだ。20代で起業した経営者は母子家庭で育ち、「なんで俺だけが」とネガティブな気持ちになったこともあったというが、勤めた工場でモノづくりの喜びを感じ、「お客さまに喜んでいただける仕事をしたい」という一念から、昨年板金加工業を開業した。当初は共同経営で開業する予定だったというが、相手が途中で挫折。2階に上がったものの、はしごを外され、止むに止まれず板金加工業を手がけることになった。しかし、やると決まればとことんやってやろうと、工場に寝袋を持ち込み、休むことなく必死に働いている。
懇談をするときは皆さん、とてもシャイ。照れながら遠慮がちに話をされるところが良い。しかし、経営に関しては徹底している。ある企業は、同世代の社員とはとことん話し合い、時には殴り合い寸前にまでいったというが、「社員を幸せにしたい」という気持ちが強烈に伝わってきた。そして何よりもモノづくりが好きで,お客さまに喜んでいただけることを会社の目標にしていた。
3社中2社は板金加工事業に参入して日も浅く、開業当初は仕事を集めるのに苦労したというが、今では「納期が間に合わなくてお断りしなければいけないこともある」というくらいに忙しくなっている。
社歴のある企業とちがって、バブル経済を経験しておらず、リーマンショック後のどん底からはい上がってきただけに、「もっと、もっと」というハングリー精神が旺盛なのだろう。
そして皆さんに共通しているのが、将来に明るい希望を持っていることだ。「社員を幸せにしてお客さまにも喜んでいただける仕事を続けたい」――表現は異なってもそうした気持ちが強い。だから設備投資にも積極的で、設備に投資した金額を“倍返し”してもらうつもりで仕事を回している。
「学生時代の恩師から『日本のモノづくりはこれから新興国に追い上げられ、コスト競争で大変になる。だからこそグローバルな視点を忘れるな』と言われたことが耳の底に残っている。だからコストが合わなくなればファブレスになって、モノづくりを海外で行うのも、ひとつの考え方。しかし、モノづくりをやめてしまえば、モノが良いか悪いかの判断もできなくなる。しっかりモノづくりのノウハウを残しつつ、グローバル化に対応することが重要」と語る言葉には、自分たちの立ち位置をわきまえ、未来へ向かおうとする意欲を感じる。
若い経営者とお話をして将来への希望と勇気をもらうことができた。読者にもその余韻を感じていただけたら幸いです。