〜視点〜

製造立国としての成長戦略



2020年に開催されるオリンピックの東京招致が決まった。安倍内閣はオリンピック開催決定をアベノミクスの「第4の矢」になぞらえ、デフレ脱却に拍車をかけようとしている。しかし、ムードは明るくなっているものの、製造業を取り巻く環境は以前にも増して厳しくなっている。「得意先やその1次サプライヤーが、内製化を進める動きが顕著になり、我々に仕事が戻らない。仕事が出ても一時的で、納品に際して『加工設備や工法を見せてほしい』と言われ、今後の取引に生かされるのなら、と工場見学を認めたら、半年後には当社と同じような設備で内製化が始まり発注が止まった」などという非情な声も聞かれる。
大手機械商社幹部も「よほど強力な根拠(推進すべき固有技術や得意先からの増産要請・一括発注要請)がない限り、設備投資マインドはまだまだ低調。アベノミクスでこれから期待される投資減税や法人税減税に期待する」と盛り上がりに欠ける国内設備投資の現況を語っている。
9月末に発表された商工中金調査部の「中小企業設備投資動向調査」からも、「2013年度修正計画は設備投資『有』の企業割合の伸びが鈍化」、という中小企業の設備投資マインドの実態が明らかになった。同調査による中小企業の国内設備投資の2012年度実績をみると、実施(国内設備投資「有」)企業割合は全体の47.0%。3年連続で前年を上回ったものの、2011年度実績からの改善幅は1.0ポイントにとどまっている。2013年度修正計画についても、国内設備投資「有」が全体の39.2%。2012年度修正計画を1.1ポイント上回る程度で、2007年以前の水準を依然として大きく下回っており、「改善傾向に頭打ちの兆しがみられる」と指摘しているのが際立っている。
2012年度実績で国内設備投資を実施しない理由は上位から順に、「現状で設備は適正水準」が60.9%、「景気の先行き不透明」が31.0%、「業界の需要減退」が15.7%、「借入負担が大きい」が12.8%、「企業収益の悪化」が12.1%となっている。2013年度修正計画でも引続き、「現状で設備は適正水準」が60.8%と最も多く、以下は「景気の先行き不透明」が30.4%、「業界の需要減退」が14.8%の順となっている。
設備が飽和状態のところに大手企業の内製化、国内産業の空洞化が重なり「受注が安定せず、先行きが不透明」という事態になっている。しかし、こうした状態がリーマンショック後、4年にわたって継続することで、国内製造業の設備年齢(ビンテージ)は、欧米各国やアジア新興諸国に比べても老齢化が目立ってきている。板金業界では曲げ加工に対応したベンディングマシンの設備年齢が平均で20年以上経過している割合が大きく上昇している。
9月16日から21日までの6日間、ドイツ・ハノーバー国際見本市会場で開催された欧州国際工作機械見本市「EMO H ハノーバーannover 2013」では、前回のEMO2011と比較して、来場者数こそ横ばいだったが、引合いは活発で、前回に比べ「50%以上増えた」(出展者)という声が多かったという。これは開催国であるドイツだけでなく、中・東欧や北欧諸国の投資意欲に復活の兆しが出てきたことが大きい。また、中国をはじめとした新興国も一時期に比べれば、社会インフラ関連投資が戻り始めており、世界的に景気底入れから回復傾向が見られてきたことが背景にあるようだ。
こうした“変化”に対し、日本だけが相変わらず対応できないようでは、競争という土俵で日本は自滅してしまう。アベノミクスを実効ある政策とするためにも、中小企業が設備投資にポジティブマインドが持てるような、製造立国としての成長戦略が求められている。