〜視点〜

外国人の高度人材を積極的に受け入れるドイツ



欧州債務危機以降、景気後退が長引く欧州経済の中で独り勝ちしているのがドイツ。しかし、そのドイツを揺るがしているのが高度人材確保の問題だ。
ドイツは人口8,200万のうち約1,600万人が移民か外国出身者で占められており、「ドイツは移民国家」ともいわれていた。しかし、その中の1/4(400万人)がイスラム系といわれ、保守層を中心に、このままでは「ドイツは外国人に乗っ取られる」という声が強まってきた。こうした世論を背景に、ドイツのメルケル首相は2010年、「多文化主義は失敗した」と述べ波紋を広げた。各民族の文化を尊重する多文化主義は、移民政策の理想モデルとされてきた。しかし、移民を受け入れてきた国々では1990年代から文化摩擦が相次いで表面化、欧州各国では移民や外国人の受け入れに慎重になる傾向が強まっている。2001年の9.11(米国同時多発テロ)以後、ドイツでもイスラム原理主義への警戒心が強まり、金融危機やその後の財政危機で仕事や年金が移民に奪われるとの懸念が高まっていた。
ドイツは日本同様に少子高齢化が進み、生産年齢人口の減少が加速。このままいくと、人口は2050年に、現在の8,200万人から5,900万人へと大きく減少、経済発展を続け、現在のような福祉国家を維持することが難しくなるといわれている。
こうした中でメルケル首相は2012年8月1日から、EUの高資格外国人労働者指令を実施するための法律を施行した。これは高度な資格を有する外国人に対し、ビザ発給手続きや在留許可制度においてさまざまな緩和措置を実施するというもの。「EUブルーカード」と呼ばれ、EUの高資格外国人労働者新指令に従い、EU加盟国から発給される滞在許可証を取得している外国人に新たな措置の恩恵を与える制度。特に、大学を卒業し、ドイツでの就労を目指す高度人材を受け入れるものである。
これらの人たちは、年収4万4,800ユーロ(約590万円)以上を保証する具体的な就職の可能性を証明できれば、就労許可を受けやすくなる。数学、情報処理、自然科学、工学分野の高度資格所有者および医師については、この最低年収額が3万5,000ユーロ弱(約460万円)となる。さらに、大学卒業者については、具体的な就職の可能性を提示できなくても、求職活動のためのビザを申請できるようになる。このビザが発給されると、ドイツでの求職活動のために最長6カ月まで滞在が認められる。
このほかにも、起業家、大学生、職業研修生などを対象とした、さらなる緩和措置もある。もともと、EU域内の国民は1992年のマーストリヒト条約で、自国と同様の待遇で他の加盟国で働くことが認められている。この制度を利用して、ギリシャやスペイン、ポルトガル、イタリアといった15歳から24歳の若者の失業率が35% 〜 50%と高い国々から、ドイツで就職活動をする若者が増えていた。しかし今回の「EUブルーカード」導入によって、高学歴の外国人高度人材が即戦力となる働き手となってきており、すでにその数が100万人を超えたともいわれている。ドイツは高度人材の「頭脳流入」によって、これまで以上の競争力強化、経済発展に取り組み始めている。
移民には、受け入れる側のプル要因と送り出す側のプッシュ要因とがあるが、ドイツの場合のプル要因は、少子高齢化と良好な経済状況下での高度技術者の労働力不足だ。
今、ドイツがEUの「労働力の自由移動」の制度を最も享受していることは間違いない。失業率が高止まりする他のEU諸国の高度人材を雇用し、移民国として経済の活力維持を図る方策を模索し続けている。