板金論壇

企業は時代の変化に対応するコアコンピタンスを確立
国は日本の産業未来図を示すことが重要

『Sheetmetal ましん&そふと』編集主幹 石川 紀夫



ガソリンエンジン向けインジェクタのオリフィス板で世界シェア30%超
夏休み明け、長野県諏訪市にある自動車部品メーカーの社長とお会いし、久しぶりに楽しい議論をすることができた。この部品メーカーは、自動車のインジェクタ(電子制御燃料噴射装置)の先端に装着されるオリフィス板を製造しており、ガソリンエンジン向けでは世界市場の30 〜 35%を占めるトップメーカー。
オリフィス板は円管を絞り、前後の圧力差から流量を求めるドーナツ形をした板。微粒化した燃料の必要流量を正確に計量し、吸気バルブ部に的確に噴霧する高精度・多機能が要求される。それだけに、流量の機能保証のために、プレートに開ける1〜18個の細穴の孔径を、0.1μm単位で管理しながら加工する精密金型の設計・製作技術と、その金型を使って、板厚0.08mm〜0.3mmのプレートに孔径φ0.1mm近傍の穴を、公差±5μmの精度で、オリフィス面に対して90〜45°の斜めに、かつ、異方向にプレス加工する技術が必要だ。
精密金型は、最大18ステージを備えた順送金型を社内で設計・製作する。金型は3次元CADで設計し、形彫放電加工機、ワイヤ放電加工機、平面研削盤、プロファイル研削盤、マシニングセンタなどで加工し、組み立てる。
加工するプレスのボルスター上には最大9ステージの金型までしかセットできないため、ボルスター上に順送金型を2列に配置して、金型をプレス加工工程中に1列ずつ往復させることで、最大18個までの孔加工を行っている。また、同社ではオリフィス板を装着するガソリンエンジン用インジェクタ部品、ディーゼルエンジン用インジェクタ部品も切削加工で加工している。工程は旋削1次加工、旋削2次加工、微細ドリル加工、フライス加工、専用機による複合加工を行っている。

岡谷・諏訪地区の精密機械産業を象徴する企業
機械加工に関しては、2スピンドル仕様のNC 旋盤、孔あけ加工するマシニングセンタ、ロータリーインデックスタイプの専用機を導入している。
同社はもともと、長野県の岡谷・諏訪地区で発展した時計工業を支えるサポートインダストリーとして、時計部品の組み立てからスタート。1970年代には腕時計に使われる時計針を精密プレス加工で製造していた。しかし、腕時計産業は1970年代後半にはピークアウト(成熟化)。そこで同社は1980年代初頭から情報機器、とりわけコンピュータのハードディスクドライブ(HDD)に使われる精密プレス加工部品を加工するようになった。ところが1990年代からグローバル化が始まり、HDDの海外生産が盛んになったことで、国内のHDD産業は空洞化していった。そして2001年のITバブル崩壊で壊滅的な打撃を受けた。...

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