〜視点〜

" 活人"に目を向け始めている板金業界

最近、社内の合理化を進める一環として、大学と連携したり民間のコンサルタント会社と契約したりして、工場診断から生産プロセス改革、人材教育などを行っている板金企業に出会うケースが増えている。
これは企業の大学との産学連携の事例。これまで当たり前と考えてきた仕事を根底から改革するためには外部コンサルトタントの指導が必要と考えていた社長が、参加したセミナーでIE(Industrial Engineering)の視点から話をする大学教授と出会った。それから、教授や研究生との交流を深め、卒業論文の研究テーマを探している学生たちを工場に案内し、彼らの目線で改革すべき課題を探してもらった。板金加工や溶接、塗装工程に興味をもった学生は、夏休みなどを利用して工場に通い、卒論の課題研究を行うようになり、相互の意見交換により課題解決の道筋が見えてきた。社員たちも若い学生たちの研究や実験に参加することで自らの仕事を深く考えるようになり、意識改革にもつながっていった。 他では2社が、トヨタ生産方式を学び、"ムダ取り"を通して生産改革を指導するPEC産業教育センター(所長・山田日登志氏)の指導を受けていた。
2社とも中堅の産業機械メーカーで、多くの機種をラインナップしている。しかもそれらが季節商品のため、年間を通しての生産平準化が難しく、結果として"モノの停滞"に課題を持っていた。モノが停滞していると生産リードタイムは長くなる。停滞しているモノが増えると保管に大きなスペースを要し、そこから必要なモノを見つけ出す"探すムダ"や、それを次工程に運ぶ"運搬のムダ"が生じる。そこで、それぞれの企業がPEC産業教育センターと契約し、同センターの山田所長やコンサルタントの指導を受けながら"ムダ取り""見える化"に取り組んでいた。
まずネック工程をペースメーカーとして工場全体のモノの流れを考え、"ムダ取り"を通して、そこで働く作業者の意識とともに生産プロセスを改善する。抜き・曲げ・溶接・塗装・組立と、板金の全工程をムダなく最適化するためには人を活かすこと、スペースを活かすことが重要と考え、"活人(かつじん)""(かつ)スペース"を指導する。
ネック工程があると設備増強で補うことを考えがちだが、同センターは「機械を増設するだけなら誰でもできる。その前に徹底した"ムダ取り"をしなさい」と指導するという。
"ムダ取り"をはじめとした改善活動はボトムアップ型の日本のモノづくりに欠かせない手法――それを愚直なまでに繰り返すことによって、作業者の意識改革まで行いながら改善効果を上げていく。
産学連携で若い学生の率直でひた向きな取り組みを通して、社員の意識を変えながら生産改革に取り組む企業。"ムダ取り"という地道な取り組みを積み重ねることで改革を進める企業。こうした企業に共通するのは、社員を信頼して任せていることと、人の本性は"善"と考え人を信じるべき、という考えに立って活動している点だ。もし業界で何かが起こっているとすれば、それは、変化の激しい環境の中で、生産改革の原点である"活人"――人を活かすということに経営者が目を向け始めているということなのかもしれない。
別の板金工場ではナレッジマネジメント(知識創造型経営)を導入していた。ベテラン社員が図面を見て工程設計を考え、加工機を決める。それから展開、プログラムを行うのだが、ベテラン作業者の頭の中で行われる展開作業を記録して、その記録を見れば誰もができるような仕組みづくりを目指していた。
差別化の重要なポイントとなるベテラン社員の暗黙知を、しっかり形式知化できれば会社の財産として競争の過程でアドバンテージになっていく。ここでも"活人"がキーポイントとなっている。