〜視点〜

米国のモノづくりコミュニティ「Tech Shop」に注目

最近、NHKが「メイド・イン・ジャパン」というスペシャル番組を放映した。製造に関連する企業経営者は少なからず、この番組を見ていたと聞く。この番組を見た経営者からは「製造ルネッサンス」でモノづくりに活力が戻り始めた米国や、連邦政府が中心となって"オールドイツ"で革新的な技術開発に力を入れてきているドイツの力強さに驚きを感じたという声が寄せられている。
日本国内での報道はまだ少ないが、シリコンバレーを中心に全米で拡大し始めているモノづくりコミュニティ「Tech Shopテックショップ」にも注目する必要がある。この情報をご教示いただいた一橋大学名誉教授の野仲郁次郎氏は「製造業の復権に力を入れるオバマ政権も、Tech Shopによるモノづくりコミュニティの育成を全面的にバックアップしており、製造業復活に不可欠な熟練工不足を解消する手立てとして考えている」と語っている。
Tech Shopは起業家のジム・ニュートンによって2006年に創設された。当初は自分の発想やアイデアを具現化するために工房をつくったが、それ(モノや工法など)を使いたいという人々に開放し、彼らの要望を聞くうちに、ビジネスチャンスを感じ、創業したという。
Tech Shopは現在、全米に6カ所――シリコンバレーに2カ所、サンフランシスコ市内に1カ所、ノースカロライナ州のラリーダーハム、デトロイト、ワシントンDCの付近にも各1カ所、オープンしている。出入りする会員の数は数千人にのぼる。
Tech Shopには、アイデアをカタチに変える工作機械や道具がそろっていて、モノづくりに専念できる環境が提供される。大型設備としては1,000万円を超えるようなNC工作機械もある。旋盤、3Dプリンタ、射出成形機などもそろっている。これらの設備はコンピュータシステムで統合され、3次元CADで設計したモデルで、実際の製品をつくり出すことができる。
Tech Shopでは、モノづくりに携わる人々が機械や作業台に向かっている。初対面の相手でも、メンバー同士はモノづくり仲間としてすぐに懇意になる。互いに相談をしたり、完成した製品を見せ合ったりすることで、モノづくりのコミュニティが生まれる。このコミュニティで専門知識を持つメンバーに出会い、ヒントや情報を得たりして、製品開発が大きく前進したという事例も数多く生まれている。
Tech Shopには初歩からモノづくりを教えるクラスもあって、機械の使い方や材料に関する知識なども学ぶことができる。
1カ月の会費は125ドル、年間では1,200ドル程度。大型の機械を駆使して、アイデアがすぐカタチになることを考えると、コストパフォーマンスも高いようだ。これまでにもスマートフォン関連の周辺機器など、「Tech Shop」で開発されたヒット商品も次々と生まれているという。すでに医療機器や自動車関連の大手企業から国防総省までが、「Tech Shop――モノづくりコミュニティ」とタイアップした商品開発を進めているという。
米国に製造業が回帰してきても、熟練工が60万人も不足しているとされる現状、スキルとアイデアを持ったモノづくりに関心を持つ米国人のコミュニティが生まれれば、熟練工不足も補える――オバマ大統領もそんな発想からTech Shopの活用を模索しているようだ。
米国の「モノづくり復権」はいろいろなところで始まっている――米国本土を歩いて体感した"風"のようなものを、再び感じた。
日本でも第2次安倍内閣が打ち出した大胆な金融緩和、財政出動に次ぐ3本目の矢、成長戦略の骨子が発表されたが、めぼしいものはなく、失望感が広がっている。これからは、Tech Shopのようなモノづくりコミュニティーサイトの創設も一考だろう。