〜視点〜

製造業の出口戦略を考える

4月19日から米国・ワシントンで20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開催された。G20では、各国が輸出競争力強化のために自国通貨を切り下げる通貨安競争の回避を再確認する一方で、日銀の新たな量的・質的金融緩和については、「デフレ脱却を意図したもの」とし、円安誘導ではないとする日本の主張に理解を示した。
「異次元緩和」という造語を生んだ日銀・黒田東彦新総裁の大胆な金融緩和は、国内外で大きな反響を呼んだ。特に国内の株価は大幅に上昇し、為替市場では円安が急速に進んだ。第2次安倍内閣発足前に比べて株価は70%上昇し、為替は30%以上も円安に振れた。ゼロ金利の時代に貯金をしていても利益は生まれないと、年金生活者がこぞって株式投資に手を出し、証券会社が主催する株式投資関連の講演会は大盛況という。株式投資を始める若者も目立つようになり、日本全体がミニバブルで浮き足立っている。
デフレ脱却を目指すのは良いが、この金融緩和が中・長期的に日本の将来にどのような影響を与えるのか、冷静に分析する視点も必要だ。米国の親しいメディア関係者から「日銀は2年間で140兆円の量的・質的金融緩和策を発表したが、日本の製造業にとって短期的・長期的にどのような影響を与えると予想しているのか」という質問がメールで送られてきた。浮かれた気分に水をさす、鋭い質問だった。
財務省が発表した2012年度の貿易統計によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は8兆1,699億円の赤字となった。年度の赤字額としては、現行の統計が始まった1979年度以降、最大となり、2年連続で最大を更新した。海外経済の減速で、欧州や中国向けの輸出が振るわなかったほか、原子力発電に代わる火力発電向け燃料の輸入が増え、赤字額が膨らんだ。
今回の金融緩和で円安がさらに進めば、貿易赤字はさらに拡大する。原油・食糧などの輸入物価の上昇で、製造業にとっても電気代・鉄鋼などの原材料価格が大きく上昇することになる。円安で輸出が増えれば、その分だけ生産量が増え、製造業にとってはメリットとなるが、地産地消で生産が海外へ移転している現状では、円安がすぐに輸出拡大につながるとは考えにくい。サポートインダストリーである中小製造企業は、デフレ脱却を大義に経団連加盟企業を中心に進んだ社員の賃上げと足並みをそろえて給与を引き上げざるを得ず、原価はさらに押し上げられる。さらに2014年、2015年には消費税増税も予定され、原価のさらなる上昇は避けられない。そう考えると、デフレ脱却のための大胆な金融緩和も、実体経済にはマイナスの効果しか与えないことになる。
停滞ムードが変わり、株価や地価は下げ止まりから上昇へと転じた。一見すると景気回復が始まっているように見える。しかし実体経済を見ると、企業を取り巻く環境は、ますます厳しさを増している。
2月に東京商工リサーチがまとめた「休・廃業、解散企業動向」調査によると、2012年の休・廃業・解散件数は前年比4.9%増の2万7,132件と2年ぶりに増加し、年間倒産件数の2.2倍に達した。後継者難などの原因もあり得るが、中小企業の疲弊が大きな問題となっている。中小企業の金融支援に絶大な効果を発揮した「中小企業金融円滑化法」が3月末で期限切れとなり、事業継続を断念する企業は今後も増えると予想される。
目の前の現象にのみ注目するのではなく、長期的な視野で日本の製造業の出口戦略を考えていかないと大変なことになる――と、米国メディアからのメールで気づかされた。