〜視点〜

“強いアメリカ”の復活――将来への夢と希望を語る米国板金業界

5年ぶりに米国の板金業界を取材した。5年前はリーマンショック直後で、米国の板金業界は不況のどん底だった。「世界の工場」となった中国に生産が移転し、IT関連産業の仕事を受注していたカリフォルニア州・サンノゼ周辺の板金業界では倒産・廃業が相次いでいた。
ところが2011年以降は、人件費が毎年20%以上も上昇する中国での製造ではコストダウンが望めなくなってきた。メキシコをはじめ、人件費が低い移民労働者が増加している米国の製造コストは、運賃などの物流コストが加わる中国での製造コストと比較しても大きく変わらないところまで下がってきた。今のままの上昇率で中国の人件費が高騰すれば、2015年までには米国と中国の製造コストが変わらなくなるといった調査データまで出てきており、IT産業をはじめ、中国へシフトした製造業が米国へと回帰する現象が起きている。
2期目を迎えたオバマ大統領も、米国の雇用拡大を図るため、製造業の復活を後押ししており、いわゆる「製造ルネッサンス」の動きが2011年以降、明確になってきていた。昨年末にはアップルがパソコンの製造を米国で再開することを発表するなど、米国の製造回帰は加速している。
そのうえ、シェールガス・シェールオイルの開発が進み、IEA(国際エネルギー機関)の予測では、2017年までに米国はサウジアラビアを抜いて世界最大の石油産出国になるとみられ、今後は電気をはじめとしたエネルギーの安定供給が見込まれている。バイオマスなどへの転用によって心配されていたトウモロコシなどの穀物相場も安定し、食糧安全保障上も米国の優位性が増すことになる。さらに中東へのエネルギー依存度が低下することで、安全保障上も米国にとって優位に展開する国際環境が整いつつある。
こうした世界の潮流の変化が、確実に米国の板金業界を復活させている。とりわけ、サンノゼを中心とした西海岸の板金業界では、中国から米国へ回帰する仕事が昨年から増大し、業績が大きく改善しつつある。農業機械、建設機械、さらには米国経済の先行指標ともなっている住宅産業も昨年秋口以降好転してきており、これらの産業が盛んな東部・中西部で景気が回復してきている。
米国の板金業界は1990年代のITバブルを彷彿とさせるほど、好景気となっている。20年前に初めて訪問したサンノゼの板金工場は、自動倉庫・レーザマシン・ベンディングマシンを増設して、1日24時間・週7日稼働を行っていた。中西部・ウィスコンシン州のある板金企業は、今年1月の売上が前年同月比で16%上昇。別の板金企業は、データセンター向けのUPS(無停電電源装置)用キャビネットのOEM受注に成功し、今年は前年比2倍の売上が見込まれると語っていた。各社とも「Time is Money」の精神で、生産性を改善させる設備投資を意欲的に行っている。
こうした板金企業に共通していたのは、米国経済の先行きに対して揺るぎない自信を持っていることだ。むろん、オバマ大統領の低所得者層に対する手厚い政策に対して、経営者からは冷ややかな意見も聞かれ、「我々は政府には頼らない」という意識が強かった。その一方で、国防産業を中心に政府の調達を増やしてほしいという要望も聞かれた。
“強いアメリカ”が復活することで、世界のパワーバランスは大きく変わっていく。これまでにも増して米国を注視する必要とともに、「板金業界には未来がある」と夢を語る米国板金業界の経営者のスピリットを日本の板金業界の経営者の方々にも持っていただきたいと強く感じた。