〜視点〜

モノづくりの復権を目指し、2013年を“夢と希望”の年に



2012年は米国・中国・ロシア・フランス・台湾・韓国などの主要国で政権トップが交代する年だったため、景気回復が期待されていた。しかし期待とは裏腹に、欧州経済は欧州債務危機からの脱却が遅れ、景気が低迷。米国経済は大統領選挙後も盛り上がりに欠いた。11月の全人代で習近平国家主席体制が誕生した中国も、経済格差の是正が進まず、市場経済とはいいながら個人消費が拡大せず、公共投資頼みでは経済成長に弾みがつかない。しかも中国は、尖閣問題から対日強硬姿勢を崩さない。日本経済は、2012年上期こそ順調に推移したが、下期は一転マイナス成長となった。
昨年末の総選挙では、小規模政党が寄り集まった第3極が誕生したものの、リーダシップを取れる政治家が不在だった。自民党への政権交代で経済界の期待は高いが、2014年の消費税値上げを前に、国内経済も下振れリスクが高まっている。
こうした中で明るい兆しといえば、中小製造業者を中心に“モノづくりの復権”を目指す動きが活発になってきたことだ。特に昨年11月に開催されたJIMTOFは予想以上の大盛況で、出展者も仮契約段階ではあるものの確かな手ごたえをつかんだようだ。企業を取り巻く環境が厳しさを増す中で、経営者が設備投資に前向きになっている理由は一点、「本業のモノづくりで勝ち残ろう」というポジティブマインドだ。これまでは得意先の海外シフトに対応して、中小サプライヤーも海外進出を考えていた。しかし、尖閣問題を契機に、経営者は進出にともなうカントリーリスクを重視し始めている。「海外展開せずとも国内で海外工場と同じようなコスト環境をつくり上げれば仕事はなくならない」「逆に日本でしかつくれない製品づくりを目指そう」「そのためには日本人のメンタリティを活かした社員のスキルアップと、最新設備の導入による競争力強化が必要だ」といった声も聞こえてくる。そのような考えが経営者の決意を促して、日本の“モノづくり復権”という流れが生まれてきている。
もともと日本は、中国から伝わった漢字から平仮名・カタカナ文化を創り上げた。女文字ともいわれた平仮名で表現すれば“繊細な文化”を、カタカナで表現すれば“堅実な技術”を、そして漢字で表現すれば、漢文に象徴されるような“聡明な理性”を感じさせる独特の文字文化を完成させた。明治維新で派遣された岩倉具視使節団の報告書の多くはカタカナで書かれ、それが富岡製糸工場をはじめとした官営工場の設置につながり、日本語という共通言語で洋行帰りの技術者から女工さんたちまでが技術・技能を共有し、モノづくりを広く国内に伝播していった。生糸生産の技術は、長野県諏訪地方をはじめとして全国に広がった。日本人は海外から導入された技術・文献を忠実に正確に翻訳し、それを高学歴の技術者から女工さんまでが学び、さらに改良・改善を加え、生産性や品質に優れた技術に具現化させてきた。それは漢字・平仮名・カタカナという文字文化を創り上げてきた日本だからこそできた技術教育だ。それが“思いやり”を育み、後工程を考えたモノづくり文化にまで昇華した。そうした文化の歴史があるからこそ、日本は製造立国で発展してきたともいえる。
少子高齢化やグローバル化など、環境は大きく変化しているが、日本人の本質は変わらない。政治・経済が混迷の度合いを深めている時だからこそ、モノづくりの復権を目指す経営者が増えてきたことは心強い。日本にモノづくりワールドの夢が広がってきた。2013年は“夢と希望”の年にしたい。