〜視点〜

「日本のために何ができるか」、真剣に考えよう



日本の将来を左右する大きな問題が2つある。食糧問題とエネルギー問題である。
世界有数の穀倉地帯である米国中西部は、トウモロコシや大豆の生産量で世界全体の30〜40%を占める。しかし今年は、干ばつなどの影響で大幅な収穫減になる公算が極めて大きく、穀物価格が急騰している。米国以外でもロシアやウクライナなどが高温・乾燥の被害に見舞われ、小麦の価格が上昇している。こうした穀物価格の上昇は、天候異変による収穫減の影響もあるが、それ以上に大きいのが国際的な需給構造の変化で、特に需要面では、世界的な人口増で穀物需要が拡大していることが大きな要因といえる。
とりわけ中国は食糧安全保障の観点から、最大の輸出国である米国への依存度を下げるために、トウモロコシのほか、主食であるコメや小麦の自給を目指し、機械化農業を進めている。しかし、大豆については今のところ輸入に頼っているのが実態で、この10年間で大豆輸入量は3倍近くも増加、世界の大豆貿易の約60%を占めるまでになっている。経済発展にともなう所得増加で食生活が改善し、大豆を原料とする食用油や、飼料用の需要が増えていることも背景にある。
トウモロコシは、バイオ燃料(エタノール)としての需要が増えたことも大きい。オイルマネーをはじめとした世界の投機マネーが、今後も穀物価格が高騰すると予測して穀物市場に流れ込んでいることも相場を押し上げる要因となっている。
こうした穀物価格高騰の影響を受け、日本でも大豆やトウモロコシ、小麦粉の小売価格が上昇している。幸い、“強い円”のおかげで、日本では最終商品への価格転嫁が遅れており、消費者にはまだ穀物価格が世界的に上昇していることへの緊張感はない。しかし、円安に振れれば、真っ先に穀物価格が高騰することは間違いない。
さらに10月1日から、石油や天然ガスなどの化石燃料に対して環境税がかかるようになった。日本では福島第一原発事故を契機に、国内で稼働中の原発を全面的に停止。日本の電気エネルギー需要の約30%を担ってきた原発がゼロになれば、化石燃料に頼った火力発電への依存度がますます高まることは間違いない。再生可能エネルギーでまかなえる発電量は総需要のほんの数%程度で、原発ほどの発電量をカバーすることは到底できない。結果として、ジャパンプレミアムのついた高い化石燃料を買い、環境税までも払って発電された電気を使うしかなく、電気料金のさらなる値上げは避けられない。ところが穀物価格と同様、化石燃料の調達コストの負担増も円高によって曖昧になっているため、国民の間では“高い”という意識が希薄だ。しかし、ここでも円安に反転すれば一気に価格が高騰し、消費者はさらに高い電気代の負担を余儀なくされる。
日本がこれまで外貨を稼いできた工業製品は、新興国を含めたメガコンペティションによってコモディティ化が進み、価格低下が避けられない。筆者は本欄で、これからの世界は、これまで“高い”と信じてきた工業製品がコモディティ化し、その反面、“安い”と考えられてきた食料価格と化石燃料に代表される資源価格が高騰――すなわち“希少化”すると書いてきた。この潮目の変化を理解しないと日本経済に未来はない。
国民は、今でも食糧や資源は無限で安く手に入るものと思っているのだろうか。毎日の報道を見ていて不安を覚えるのは、筆者1人だけではあるまい。国民1人ひとりが、国が何かをしてくれるのを待つのではなく、「国のために自らが何をなしうるのか」を考える時が来ている、と思う。