本格普及期をむかえるファイバーレーザ溶接

加工領域の拡大に期待が高まる
優れたビーム品質とCW溶接で薄板から厚板までの高品位溶接を実現

普及段階に入った ファイバーレーザ
溶接工法ごとの特性比較表/栄通信工業溶接工法ごとの特性比較表/栄通信工業(株)
1988年に、それまでのコア励起の概念を打ち破るクラッド励起のNdファイバーレーザが登場して以来、CW(連続発振)方式のファイバーレーザの出力は飛躍的に増大していく。1999年にはクラッド励起NdファイバーでCW・出力100W、2002年には1kWを達成した。
ファイバーレーザは、モジュールの並列接続で出力を増加できるため、高出力化が容易。ファイバーレーザ発振器のリーディングメーカーであるIPGフォトニクス(米国)は、300W出力のシングルモードファイバーレーザーを並列モジュール接続、ビーム結合することで、すでに出力20kWを実現している。
ファイバーレーザは、共振器部分にファイバーを用い、驚異的な効率で高品質なレーザ出力を得ることができる。高出力でも高品質なビームが得られるため、YAGレーザよりも小さな出力で金属の切断や穴あけ、溶接が行えるとして注目されてきた。エネルギー効率も大幅に改善され、省エネ・環境負荷低減が求められている今日の製造業に大きなインパクトを与えている。
スイスの調査会社OptechConsultingの「FiberLaserReport2011」によると、2005年から2010年までの5年間で、世界のファイバーレーザ市場は年平均28%で急成長している。2010年の市場規模は3億6,500万ドルで、2005年の1億500万ドルから約3.5倍に拡大。用途別の内訳をみると、切断・溶接を含む材料加工分野が全体の78%を占めるまでになっている。

多品種少量生産の板金工場でも普及が進む溶接ロボット
チェンナイから50kmほど離れたスリシティーに工場進出したコベルコ建機アマダのファイバーレーザ溶接機 「FLWシリーズ」
工法とは別の角度から溶接工程を劇的に変革したのが、溶接ロボットだ。
溶接ロボットの普及元年は、1980年とされている。もともと溶接作業は高熱と紫外線とヒュームを発生する過酷な作業であり、安全衛生の観点からもロボット化のニーズが高かった。また、自動車や家電業界に代表される“薄板”の大量生産ラインでは、コストダウンと品質安定を図るため、溶接工程のロボット化がいち早く進められてきた。1980年代後半からは建設機械・建築鉄骨・鉄道車両・橋梁・鉄塔・造船・重電機械などの“厚板”“大型構造物”の分野へと適用が拡がっていった。
1990年のバブル崩壊を機に、国内産業は劇的に変化し、プラザ合意(1985年)以来の円高と冷戦終結(1989年)によるメガコンペティション(大競争時代)を迎える。その結果、日本の製造業はグローバルシフトや、多品種少量生産・変種変量生産とコストダウンへの対応が一段と求められるようになり、1990年代後半以降は、板金加工の分野でも溶接ロボットのニーズが高まっていった。
しかし、多品種少量生産化が進む板金加工分野への溶接ロボットの適用は、(1)ティーチング・補正などの段取り工数、(2)ワークを固定・支持する治工具の製作――の2つが大きな課題となっていた。
ティーチング作業は、製品の種類の数だけ必要となる。また、ワーク形状の複雑さ、ワークを固定する治具の精度、ブランク・曲げ・仮付けといった前工程の精度などによって個体差が発生するため、製品単位での補正が必要になり、作業者の負担を高め、稼働率を低下させる要因となっていた。...

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