〜視点〜

“潮目”が変わる今だからこそ、企業人財の“ユナイテッドパワー”が必要



最近業界を回っていると「潮目が変わってきた」という話をよく聞く。
 “潮目”だから良い方にも悪い方にも変化する。欧州債務危機の影響で、リーマンショック後の世界経済をリードしてきたBRICsや新興諸国の成長が軒並み鈍化。さらに天候不順による小麦・トウモロコシ・大豆などの収穫量の減少による穀物価格の高騰、ひいては食糧危機に対する各国の思惑も重なる。その一方で、米国によるシェールガスなどの天然ガスの採掘が進み、石炭などの資源価格が下落するなど、世界経済を取り巻く環境は大きく変化している。“潮目”とはまさにこうしたグローバルな構造の転換点である。
ある板金企業の経営者は「今、忙しいのは一部の自動車関連業界だけで、そのほかの業界からの仕事は軒並み20〜30%落ち込んでいる。省エネと脱原発によるスマートグリッドの発展に期待しているが、話は来ても数モノの仕事は一向に出てこない。ここへ来て休業・廃業を決めた同業者も目立ち、仕事自体が増えたのではなく、仕事の発注先が減って、その分がこちらへ回っているのが実態。差別化を目指し、ここ2年ほどは売上比率2ケタの割合で大型の設備投資を行っているが、どこまでやれば勝ち残れるのかよく分からず、先が見通せなくなっている」と語っていた。多くの経営者が今、同じ思いを抱いていると思う。
尖閣諸島や竹島の領有権を巡る中国・韓国との対立は、国民感情を刺激して、出口の見えない紛争へと発展しようとしている。このままでは「敵の敵は味方」の考えで、従来の常識では考えられないようなパワーバランスの変化が起こりかねない。
東アジアは世界人口に占める割合も高く、市場は巨大で発展性があり、魅力は大きい。小誌はこれまで何度となく「アジア内需の取り込みこそが日本の進むべき道」と主張し、FTAやEPAの早期交渉と締結を望んできた。しかし、感情論で紛争解決が長引けば、アジア内需を日本に取り込むのは難しくなる。
1989年以降に急速に進んだボーダレス化とグローバリズム。しかし、民族問題や愛国心の要素が入り込んでくると、経済現象だけでは割り切れない問題が生じてくる。国家と企業、企業と個人という関係の中で、こうした閉塞感を打開するものがあるとすれば、国境を超えた企業力の強化――“ユナイテッドパワー”だ。市場経済がイデオロギーや政治体制を超えて世界に広まる中で、いかにして勝ち残れる企業になるか――そのためのブランド力強化は欠かせない。ブランドには国境がない。消費者に欲しいと思わせる機能・性能・価格・納期を満足させることができれば、そこに新たな需要が生まれ、ブランドへの信頼と安心、期待が高まり、自ずと商品は売れていく。
市場経済は売り手と買い手の需給バランスによって勝者・敗者が決まる。それだけに買い手が欲しいと思うような商品戦略と価格を含んだ販売戦略が求められる。当然買い手である購買層は、所得水準や民族性、経済発展段階によって異なっており、必要な製品を必要な時に、必要な場所で、必要な数だけ供給できるSCMの構築が必要になる。それを実現させる王道は、企業が育んできたDNAに裏付けられた人財の“ユナイテッドパワー”ではないだろうか。ひとつのブランドの元に同じDNAを持った人財が目的を同じくして、それぞれの役割を果たすことができれば、国境も政治も存在しない。
 “潮目”が変わった今だからこそ、企業は事業目的とそこで働く人財の役割を見直し、“One Voice for One Brand”を追求する集団としての“ユナイテッドパワー”を発揮しなければならない。