〜視点〜

日本人の“自信と誇り”を取り戻すとき



ロンドンオリンピックが閉幕した。開会式を見たが、イギリスの歴史が過去から現在へ――とりわけ産業革命以後の時代が語られ、最後はエリザベス女王の執務風景から、会場へと到着した姿が映し出された。そこからはエリザベス女王を頂とした「UNITEDKINGDAM」の"自信と誇り"を感じた。
7月に入り、中国・インドへ出張するとともに、韓国・台湾・ブラジルの経済事情に精通した専門家の方々と話す機会を得た。率直にいって、日本の景気は「良い」という印象を持った。中国・インドは直近のGDP成長率がそれぞれ+7.6%と+5.3%。それに対して日本の第1四半期のGDP成長率は+1.2%(年率換算で+4.7%)と、比較すると決して高い数字ではないが、東日本大震災の復興需要など内需が底固いこともあって、日本の足元の景気は順調である。また、上期・下期でみると、「下期のほうが良い」と考えている経営者も意外に多い。最近発表されたOECDの日本経済分析では、日本の2012年のGDP成長率は+2%、2013年は+1.5%と予測されている。「製造ルネッサンス」で好調な米国経済が2012年は+2.4%、ソブリンリスクで信用不安が続くEU圏が▲0.1%なので、国際的にみれば日本経済が比較的安定していることがわかる。だからこそ、現在の円の独歩高にもつながっている。
日本の"自信と誇り"に関してみると、中国でもインドでも「Japan」ブランドは依然として高品質で安全・安心というイメージが強い。そして、それを生み出す日本の生産技術力に対して絶大な信頼がある。特にそれを強く感じたのがインドだ。もともと1947年にインドが英国から独立する際、第2次世界大戦でインドに残り、帰国できなかった多数の日本兵が、独立戦争を戦ったインド独立義勇軍に参加し、命を落としている。それだけにインドの人たちの多くは日本と日本人を尊敬し、大変な親日家でもある。インド政府は1991年から始まった経済自由化で、外資と外国技術を積極的に導入し始め、日本の生産技術や品質管理技術の導入を積極的に行っている。多くのインド企業では「5S」「KAIZEN」という単語をステッカーに印刷し、工場の壁面に掲げている。インドの企業人やエンジニアは日本のモノづくりに学び、それをインドに根付かせようと努力している。インド入国に際してはビザが必要だが、商用ビザで入国すると、入国管理官が「コンニチハ」、帰国に際しては「コンバンハ」と言い、歓迎と名残を惜しむ気持ちが伝わってくる。
日本人が尊敬されていることを様々な出会いの中で感じると、自然と日本人としての"自信と誇り"が沸いてくる。これが驕りになってはいけないが、謙虚さを兼ね備え、インドの人たちの発展にどうしたら貢献できるのかを考えていけば、自ずと"自信と誇り"が高まってくる。
韓国・台湾・ブラジルは5月以降、急速に国内景気が悪化しているという。台湾・韓国では「中国がクシャミをしたら台湾・韓国は風邪を引いてしまった」と喩える向きもあるが、GDPに占める輸出比率が台湾・韓国ともに高いだけに、欧州に端を発した信用不安による世界経済減速の影響が直接効いている。その点、GDPに占める輸出比率が20%未満の日本は、内需――とりわけ個人消費が60%を占めており、発展の余地が残っている。それだけに日本人が日本の将来に"自信と誇り"を持つことが今は一番重要だ。社会保障と税の一体改革やエネルギー問題、安全保障・領土問題でミソがついている野田首相では自信も誇りもないだろうが、企業人である我々は"自信と誇り"を取り戻し、世界経済の発展に貢献しなければならない。