〜視点〜

出るも地獄、残るも地獄



中国、インド、ブラジルなど、いわゆるBRICsと呼ばれてきた新興国の経済成長の鈍化が鮮明になってきた。
中国の経済成長は8%前後を保っているが、年初に言われていた「6月頃からは上向く」という見通しは大きく後退している。中国政府も金融面から景気浮揚を考え、金利を0.25%引き下げ、インフレ防止のために昨年から続けてきた金融引締めを緩和する方向に舵取りをし始めている。インドも2011年度(2011年4月〜2012年3月)の第4四半期の実質GDP成長率は、前年同期比5.3%と29四半期ぶりの低水準。2011年度通年では6.5%と2003年度以来8年ぶりの低い値となった。インフレ抑制のための高金利政策や急激なルピー安によるコスト増により、企業の設備投資や消費行動が衰え、製造業が減速している。ブラジルも2012年第1四半期のGDP成長率は、前年同期比0.8%増にとどまった。2012年のGDP成長率の目標を4.5%としていたものの、達成は困難となっている。こうした新興国の経済不振は、欧州のソブリンリスクとともに世界経済の混迷を深める大きな要因となっている。
今年はアメリカ、中国、ロシア、フランス、韓国、台湾、北朝鮮と主要国トップの交代ラッシュの年。トップが交代する年は好景気になるというジンクスは歴史が証明している。特に顕著なのが5年任期2期10年で国家主席が交代する中国。過去の例では、前政権が政績を残すためと、次世代のトップが指導者としての評価を得るために、国家主席が交代する年には大がかりな公共投資を行い、景気浮揚を行ってきた。ところが、2008年のリーマンショックに際して行われた4兆元の真水による景気対策や、西部大開発のような内陸地域の振興と経済格差の是正に巨額の公共投資を持続的に行ってきたことが、かえってインフレを招いた。そして、富裕層と貧困層との所得格差がさらに拡大するなどの社会問題が顕在化、真水効果にも限界が生じ、思い切った手が打てない状況となっている。
世界経済の成長に下ぶれ要因が増す中で、円の独歩高、株価の下落によって日本経済の将来にも厳しさが増している。その中で確実に進行しているのが国内産業の空洞化。今や地産地消、適地適産という考え方が一般的となり、日本の経済発展を支えてきた中小製造業は「海外へ進出するも地獄なら、国内に残るも地獄」という状態が続いている。都内・三多摩地区の板金業界はこれまで、三多摩地区に本社や基幹工場を持つ情報通信やコンピュータなどのIT関連企業、半導体などのデバイス関連企業、医療機器や測定・制御関連企業から、板金試作から量産まで一貫して受注してきた。ところが、こうした発注企業の大半が適地適産で生産を海外へシフトし、国内に残る仕事は半分以下に減少している。そのため、1次サプライヤーであっても仕事量を確保することが難しく、生き残るためには得意先と一緒に海外へ進出するか、新たな取引業種・企業を開拓して新規受注を増やす必要が出てきており、いずれかの決断ができなければ廃業へ追い込まれるという厳しい状況になっている。マクロ経済を見ている間に足元が崩壊し、立ち行かなくなることもしばしば目にするようになっている。
2008年以降、後継者難から廃業を決断する企業が増加傾向を示していたが、今後は売上の大幅減少を理由に廃業する企業の増加も見込まれている。「出るも地獄、残るも地獄」という現実が、中小製造業者の経営者の目の前に今、突きつけられている。