地域でがんばる板金企業



小物から大型構造物まで対応できる 金属加工のオールラウンダー
「知的資産経営報告書」で社員の意識を統一



株式会社 富士工作所

小物から大型構造物まで対応できる オールラウンダー

代表取締役の田邉敏樹氏代表取締役の田邉敏樹氏
同社の代表取締役、田邉敏樹氏は現在32歳。創業者であり父親の田邉賢一氏が急逝した後を継いで、2007年に若干26歳で2代目社長に就任した。「先代の社長は、ゼロから会社を興した創業者で、典型的なワンマン経営者。営業・受注・生産手配・納期管理―すべてをひとりで取り仕切る“スーパーマン”でした」と田邉社長は振り返る。
同社は、現社長の父である田邉賢一氏が創業した板金・製缶製造企業で、薄板から厚板まで、まんべんなく対応できることを強みにしている。
1979年に神戸市須磨区で創業した当初は、配電盤や配電設備関連といった薄板の仕事を手がける。その後は、大手重電メーカーや総合機械メーカーから受注する造船・橋梁・トンネル用シールドマシン関連といった中厚板の部材製作へとシフトしていった。
1995年の阪神淡路大震災では工場が半壊し、操業不能になった。しかし、取引先の厚意に支えられ、貸工場で操業を再開。震災の影響が落ち着いた1999年には、狭い工場敷地が制約となっていたため、現在地である神戸市西区の西神工業団地の企業から工場・事業を継承、同所へ移転し、大型構造物にも対応できるようになっていった。
2004年頃からは、薄板から厚板まで、鋼板だけでなくステンレスやアルミまで、小物から大型構造物まで対応できるオールラウンダーであることを強みに、新規分野・得意先を次々と開拓。現在の得意先社数は約50社で、そのうち定期的に受注するのは30社前後となっている。
業種別の売上構成は、建設機械関連(カバー、エンジンフード、ドア、キャビンなど)が30%、発電所や変電所の設備といった重電関係が20%くらいで半分を占める。残り半分は薬品プラント設備、ポンプ・遠心分離機などの産業機械の部材、造船関係となっている。

「知的資産経営報告書」で 社員の意識を統一
HD による曲げ加工。Bi-S(○部分)が曲げ角度を測定し、高精度の曲げ加工が可能となっているHD による曲げ加工。Bi-S(○部分)が曲げ角度を測定し、高精度の曲げ加工が可能となっている
田邉社長は、“スーパーマン”である父親(田邉賢一氏)の背中を見て育ち、1999年に入社。それ以来、溶接を5年ほど担当し、それ以後プログラム・ブランク(レーザ)・曲げと各工程を経験していった。
田邉社長は2007年に26歳で2代目社長に就任する際、「私が父親と同じやり方を踏襲し、すべてを取り仕切るというのは無理な話です。ですからまずは、父親に頼り切りだった会社の仕組みや組織のありようを見直すことが大切だと考えました」と語る。
田邉社長は経営コンサルタントの勧めにしたがって「知的資産経営報告書」(以下、報告書)の作成に取りかかった。折しも経済産業省が、日本の国際競争力の強化を目的として、中小企業を対象に「知的資産経営報告書」の作成・開示を促進し始めたところだった。
同報告書は、企業が保有する人材、技術、技能、知的財産(特許・ブランドなど)、組織力、経営理念、得意先とのネットワークといった、財務諸表に表れない無形の資産を把握し、「報告書」というかたちで開示するというもの。金融機関・投資家、得意先、取引先、従業員・就職希望者などへ向けて発信することで、スムーズな資金調達、得意先や取引先の信用向上などにもつながる。
「報告書の作成をサポートしてくれた中小企業診断士の方からは当初、『誰へ向けた報告書にするのか』と尋ねられました。目的と対象を明確にしていないと内容が漠然としてしまう。私は迷わず『社員へ向けて発信し、意識を統一して、士気を高めるためにつくる』と答えました」。
報告書は2008年に完成。田邉社長は全社員の前で発表し、中小企業基盤整備機構のWebサイトを通じて開示した。...

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