〜食糧安保が後押し──市場拡大が続く農業機械〜

国内唯一のトレンチャー総合メーカー
海外市場の販路開拓と"フレキシビリティ"で活路を見出す

川辺農研産業 株式会社



ゴボウ・長芋・ネギなど 根菜栽培用の作業機を製造
代表取締役社長の川辺一成氏代表取締役社長の川辺一成氏
東京都稲城市に本社工場をもつ川辺農研産業は、日本で唯一のトレンチャー総合メーカー。トレンチャー(ゴボウなど根菜栽培用の溝掘り機)をはじめ、ソイラー(硬盤破砕と地中深耕)、ゴボウ・長芋・ネギなどの各種収穫機の製造・販売を手がけている。一部自走式もあるが、トラクターの後ろに接続するタイプの作業機(アタッチメント)が多い。
同社のルーツは、1959年に現代表取締役会長の川辺久男氏が設立した川辺農業機械研究所。川辺会長は、明治中期に設立された農業機械メーカーで、戦後に空冷エンジンを搭載した小型耕耘機を日本で初めて製造販売し、一時代を築いた「細王舎」(その後、小松製作所に吸収合併される)に入社。生産技術を担当し、農業機械のモノづくりを経験した後に独立し、川辺農業機械研究所――のちの川辺農研産業を創業した。
設立当初は農業コンサルタントの業務に携わり、1960年代には初の自社製品、水田向け乗用代掻き機(水田の表面を平らにならす機械)を開発。その後、トレンチャーなど、根菜栽培向けの製品開発へとシフトしていった。1980年代にはトラクターのアタッチメントとしてゴボウを効率的に掘り出す製品「ルートディガー」で特許を取得。これは現在も同社のコアコンピタンスであり、主要製品であるゴボウや長芋の収穫機などに改良・応用されている。

熾烈な環境変化の中を生き残る
パンチングマシンEMZ-3510NT+ASR-48M。同社の自動化・デジタル化の端緒となったパンチングマシンEMZ-3510NT+ASR-48M。同社の自動化・デジタル化の端緒となった
同社の製品のほとんどはゴボウ、長芋、ネギといった蔬菜そさい農家向け。手厚い関税保護を受けてきた米作とちがい、蔬菜農家は市場経済の中で輸入品との厳しい競争にさらされてきた。
1985年のプラザ合意以降、円高が進み、野菜の輸入量は増加傾向となった。1990年代には中国からの輸入が急増し、ゴボウにいたっては、1992年から1999年までの7年間で輸入量が17倍に増加。国内の小売価格は半値近くまで下落し、生産農家は大打撃を受けた。2000年以降も補助金の縮小、農業従事者の高齢化による離農ラッシュが重なり、同社の業績も大幅に落ち込んだ。
もともと作物の種類が多いうえに、地域によって栽培方法が大きく異なるのが蔬菜生産農家の特徴。それに加えて、激化する国際競争にさらされ続けたことで、国内市場は絶えず複雑に変化していった。変化に対応できないメーカーは、一様に縮小・撤退の方向へと舵を切った。その結果、根菜栽培向け農業機械の専業メーカーとして性能・品質で他社をリードしてきた同社が国内唯一のトレンチャー総合メーカーとして残ることとなった。...

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