〜視点〜

将来への希望と、それを叶える勇気を持とう



3.11東日本大震災、7月の集中豪雨と9月の台風による洪水、そしてタイの水害被害と昨年は想定外の自然災害で社会生活ばかりか製造業にとっても課題の多い1年であった。2012年はアメリカ、中国、ロシア、フランス、韓国など主要国の大統領や国家主席が交代する。また、昨年末に突然発表された北朝鮮の国家主席の死去。政治状況も混沌としている。主要国でトップ交代が相次ぐ年だから景気は回復基調と予測するアナリストは多い。しかし、ソブリンリスクで揺れる欧州、緩やかに回復基調をたどるものの高止まりする失業率、依然続く商業銀行の破綻、三つ子の赤字で混迷するアメリカ。民主化を求めてプーチン政権への批判を強めるロシア、ウォン安と世界各国と経済連携を強めるがために自国の農業を犠牲にした極端な輸出ドライブで経済発展を遂げてきた結果、国内に課題山積の韓国。それぞれの国が抱える課題を考えると、おいそれと景気が回復するとは思えない。世界経済が安定的に成長するためには日本をはじめとした主要国はインフレを加速して消費を拡大、内需主導で景気回復を図る必要があるが、インフレが加速すれば貧富の差が露呈し持てるものと持たざるものとの格差が拡大、社会的弱者を生むという矛盾も露呈。真に経済の舵取りは難しい。
そうした厳しい国際環境の中でも企業は生き残らなければならないし、利益を確保して社員とその家族の生活を守らなければならない。マクロ景況に惑わされることなく自らの企業の立ち位置を定め、身の丈に合わせた経営を行わなければならない。昔から、経営者の器以上に企業は成長しない、と言われてきた。それだけに企業トップの器――マインドや志向が重要である。
一昨年から2年に亘ってNHKで司馬遼太郎原作のドラマ「坂の上の雲」が放送された。特に昨年末は4週連続で日露戦争で活躍した秋山好古、真之兄弟を軸に、正岡子規との関係を背景に、旅順攻撃から奉天開戦までの陸軍の戦い、バルチック艦隊と日本海で戦った海軍の様子が紹介された。明治維新後37年、開国して間もない貧しい日本が、強国ロシアとの戦争をいかに戦ってきたのか。歴史背景、史実とともに克明にドラマ化されていた。しかし、ここで描かれていた好古、真之兄弟をはじめとして乃木希典、児玉源太郎、大山巌、東郷平八郎、小村壽太郎などの人物を改めて見ると、それぞれがグローバルな世界観を持っており、日本の位置づけや立ち位置も見事に把握していたのには驚かされる。第2次世界大戦時の、関東軍の世界観の無い戦いに比べると比較にならない。さらに日本の実力・身の丈を十二分に把握しつつ、身の丈を超えた戦いを進めるための戦略・戦術を持ち合わせていた。そして何よりも日本をこよなく愛し、未来への希望、それを実現させるための勇気を持ち合わせていたという事実に感嘆した。
今の経営者にとって当時の日本のリーダーが持っていた世界観、日本の国力の把握。そして将来への希望、それを実現させる勇気ほど示唆に富むものはないのではないか。おそらくこのドラマを視聴されていた経営者の方々も多かったに違いなく、そうした方々には是非、これからの厳しい環境の中でグローバルマインドを備え、正確な実力の把握、そして明日への希望とそれを実現させる勇気。これを忘れずに持ち合わせていただき、この1年に臨んでいただくことを願っている。