〜視点〜

変化する市場への対応は経営者のマインドがポイント



3.11東日本大震災と津波によって発生した福島第一原発事故、それによって湧き起こった脱原発論議とエネルギーショック。2011年は戦後の日本に最大の国難をもたらした。目を転じるとアイルランド、ギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリアに端を発したソブリンリスクは東欧やEUのリーダー格であるフランスにも飛び火している。EU経済を支えてきた機関車役のドイツの対応いかんによっては、EU経済が瓦解することも考えられる。
アメリカでは、今年の大統領選挙で再選を目指すオバマ大統領が、選挙を有利に戦うため9%台で高止まっている失業率を少なくとも7%台にまで引き下げて、アメリカ製造業の復活を目指す。また、貿易不均衡が顕著な中国政府に対しては元の切上げを強く求めるとともに、TPP交渉を通じて日本を巻き込んだ対中国政策を推し進めようとしている。一方中国では、1978年の改革開放以来、政府主導で市場経済を導入、外資を積極的に受け入れて発展を遂げ、2000年代に入ってからはGDPが2ケタ成長を続けてきた。現在、元の実質的な切上げ、人件費の高騰、6%以上という物価上昇率――インフレ経済によるバブル経済崩壊の危機を迎え市場経済の破綻が現実のものになろうとしている。その中で今秋にも開催される共産党大会で新しく共産党書記長――国家主席に選任されるといわれる習金平氏がこの難局を乗り越えるために元の切上げ、TPP交渉、南シナ海に点在する島々の領有権を巡るベトナム、フィリピンなどとの2国間紛争に介入姿勢を強めるアメリカに反発して対決姿勢を強化する可能性が高い。米中対立の激化と欧州の経済危機は2012年の経済に大きな影響を与える。
企業経営者が考えなければならないのが、企業にとって真のグローバル化とは何か、という問題である。日本のGDPに占める輸出の割合は17%。EU、アメリカなどと相次ぎFTAを締結し、海外市場で日増しに存在感を高める韓国のGDPに占める輸出の割合は56%と日本の3倍以上となっている。逆に言えば、日本は輸出だけに頼らなくとも経済発展を支える力を備えている。とりわけGDPの60%を占める個人消費は大きい。また、ITの発展で地球が小さくなり中国、インドなど膨大な人口を抱えるアジアマーケットを“内需”として捕まえることができるように知恵を働かせるべきである。
この欄でも何度となく紹介しているが、世界の製造工場となっている中国も付加価値の高い製品の開発・製造ではまだまだ多くの課題を抱えている。また、韓国では日本に比べて安い法人税(25%)、電気代(日本の60%)をはじめとした各種のインセンティブを武器に、釜山市などが日系企業の誘致を目指す動きが活発化。それだけに企業経営者はこうした動きをよく検討して、海外企業とのアライアンスを含めた様々なオプションを持つべきである。発注元が海外へ生産移転することで仕事量が減るという事実を考えれば、国内の仕事は収縮する。しかし、それ以上にアジア内需の拡大によって、日本が得意とする高付加価値製品市場の拡大で日本の出番が増えることは間違いのない事実。経営者のマインド次第で市場は大きく変わっていくということを考えなければならない。市場は収縮しているのではなく変化している、と捉えれば対応の仕方も変わってくる。マクロ的には厳しい課題が山積しているが、ミクロ的に考えると明るい材料もたくさんある。2011年を振り返るとこれからは、企業経営者の責任がますます重要となることがはっきりしている。