〜視点〜

異常気象にエネルギーショック、
真のグローバル化が問われる企業経営



エルニーニョ現象が叫ばれて久しいが、今夏の天候異変は異常だ。35度以上の猛暑日が何日も続いたかと思うと、大陸から張り出した冷たい高気圧が太平洋高気圧とぶつかって寒冷前線が発生し、急な落雷やゲリラ豪雨で1時間に50ミリ以上もの雨が降ることも珍しくなくなっている。今年の夏は寒暖の差が激しく、熱帯地方のスコールを思い起こさせる天候が続いた。地球温暖化による気象変化は確実に進んでおり、四季に恵まれた日本の季節感が薄れ、亜熱帯化が進んでいるように感じる。
その一方、政府が国際公約した、地球温暖化を避けるための温室効果ガス(CO2)排出量を2020年までに1990年比で25%削減するという目標達成が、原発事故と原発反対の世論によって難しくなっている。国内に54基ある原発のうち、原発事故で廃炉が決まった福島第一原発の5基に加え、定期点検中や、地震・津波対策が終了するまで停止されている原発を加えると、現在43基(2011年9月20日現在)が稼働停止中である。来春までに定期点検で停止する原発を含めると、国内にある54基すべての原発が停止することになる。
これによって国内の総発電量の30%をまかなっていた原発による電力確保が厳しくなったことで、代替として休眠していた火力発電所や企業の自家発電所が再稼働するようになっている。これによって新たに発生する燃料費の増額費用は3兆円にも及び、これを賄うためには電気料金の20%程度の値上げが避けられなくなっている。当然、火力発電所では液化天然ガスや石油を燃料に発電するため、燃料費の高騰と合わせて、温室効果ガスの排出量増加も懸念されている。
もちろん今後は、太陽光・風力・地熱・海洋・バイオマス発電など、再生可能エネルギーをはじめとした代替エネルギーの開発が加速するのだろう。しかし、安定的な電力供給を考えると、太陽光や風力は自然によって左右され、地熱・バイオマス・海洋発電はまだ技術的にクリアしなければならない課題が多く残されている。むろん、夜間の余剰電力を使った揚水発電の利用も考えられるが、1基で100万kWの発電量を持つ原発ほどの発電能力を備えた代替エネルギーはなかなか見当たらない。また、原発の敷地面積に比べ太陽光や風力発電は設置面積が大量に必要で、太陽光で100万kWクラスの発電量を賄おうとすると、山手線内全域の面積が必要との試算も出ている。それだけに将来のエネルギーの安定的な供給とコストを考えると、日本にとっては極めて厳しい現実が想定される。
そうした中で、今号からスタートした連載「韓国経済と板金業界」によると、韓国の電気料金は日本のほぼ6割で、現在の日本と比べると供給も安定しており、エネルギーコストだけを考えても日本は大きなハンデを背負っていることが紹介されている。最近の新聞報道によると、極度な円高の状況で大手企業の4割が海外生産の増大を計画しているといわれており、その受け皿のひとつとして韓国がクローズアップされ、中小企業の中にも韓国への脱出組が見られるようになってきた。このままでは適地適産という名目で日本の産業空洞化に拍車がかかることは言うまでもなく、国内の仕事量が収縮することが懸念される。
こうした状況では、日本に残る仕事だけをアテにして企業経営を考えると結果として体力勝負となり、価格競争力を備えている企業だけが勝ち残る構図が一段と鮮明となり、板金業界も一層の構造変化が起きることになる。これからは現地進出、現地企業とのアライアンスなどを含めた、真のグローバル化が求められている。