〜視点〜

迫る危機への対応



世界経済を牽引してきた中国経済に減速傾向が見え始め、もう一方の車輪であるアメリカ経済も、懸念されていた中間所得層が抱える「クレジットクライシス」が現実のものになろうとしている。
中国は、経済成長が著しい沿岸部から中部・内陸・東北部の経済を発展させるために膨大な国家予算を投入し、社会インフラの整備を進めている。しかし、公共投資は一時的に成長を押し上げるが、その地域で生活する人々の個人消費拡大(内需拡大)なしに持続的な経済発展は実現できない。もともと中国はGDPに占める個人消費の割合が35%と低い。個人消費を押し上げるためには個人所得を底上げしなければならず、人件費は高騰、その結果インフレが発生し、実質的な所得(購買力)の伸びは小さい。さらに、浙江省温州市で起きた高速鉄道事故に象徴されるように、短期間で開発した社会インフラの歪みがトリガーとなって、政府に対する批判が強まっている。こうした事態を考えると、2ケタ成長を続けてきた中国経済も踊り場を迎えているといえる。
アメリカは、製造ルネッサンス(製造回帰)をオバマ政権が掲げ、輸出力を強化して膨らみ続ける財政赤字からの脱却を目指している。しかし、コスト競争力を備えるためには人件費の抑制を目指すことになり、その一方でオバマ大統領を支持してきた低所得者層の雇用機会を増やすことも求められる。必然的に共和党を支持してきた中間所得層の切り捨て(リストラ)が増加、ホワイトカラーの失業が大きな問題になろうとしている。アメリカ経済を支えてきた中間所得層が職を失えば、彼らの消費を支えてきたクレジット決済の信用不安を招き、1 兆ドルともいわれるクレジットクライシスが起こる。そうなれば、リーマンショックの引き金となったサブプライムローン以上の激震が起こる可能性すら出てきている。
欧州では、アイルランド、ギリシャ、ポルトガル、スペインが大幅な財政赤字と不良債権を抱え、ドイツ1国がEUを支えている状態だが、破綻の連鎖で肝心要のドイツ経済にも黄色信号が灯りつつある。
一方、日本経済は、急激な円高とエネルギーショックによって、国内でのモノづくりに限界が見え始めている。最近では、韓国の電気料金が日本の60%程度で供給も安定していることから、素材産業や半導体・液晶製造装置・有機EL などのメーカーが韓国へと製造拠点を移す動きを見せている。韓国は7月1日にEUとのFTAが発効し、すでにASEAN、インド、中国ともFTAを締結・発効、アメリカとも協定に調印して発効待ちの状態。FTA/EPA 交渉では農業問題で後れを取っている日本に比べると、はるかに貿易自由化を進め、国際競争力を強化している。しかも、ウォン安を追い風に経済成長を続けており、韓国に製造拠点を設けて海外市場の開拓に力を入れようとする日系企業が増えるのも当然である。
こうした八方塞がりの状態で、中国とアメリカという世界経済の両輪に暗雲が立ちこめている。中国・アメリカ経済の減速・瓦解が世界経済にもたらす影響は計り知れず、円高・エネルギーショック・増税の三重苦にあえぐ日本経済は塵芥と化す可能性すらある。危機回避のために重要なのが内需創造―すなわち、震災復興をテコにした内需拡大である。さいわい、GDPに占める日本の輸出比率は16%、60%は個人消費である。それだけに日本は眼前に迫った世界経済の危機を乗り越えるためにも、被災地における経済特区の新設をはじめ、グローバル化する日本経済のビジョンを想定した、思い切った戦略的な復興計画の策定が重要である。