〜視点〜

日中、板金企業経営者のマインドの違い



最近、読者から「中国関連の記事が増えましたね」との指摘を受ける機会が増えている。この2月に華南から湖南省を回り、アミューズメントブームで活況な広州市と、中部大開発で社会インフラの建機・鉄道などが活況な湖南省・長沙市を取材して、中国の活発な板金事情をレポートした。今号も華東、華北の板金事情を紹介する。7月1日に中国共産党が結党90周年を迎え、北京市内は祝賀ムードだった。その最大のイベントが、6月30日に開業した北京―上海間の高速鉄道だろう。中国では開業当日の指定席券が、売り出し後、わずか40分で完売したと報道されている。中国政府は国産化率89%の独自技術で開発し、開業を迎えたとPRしているが、時速380km、300kmで運転される予定だったのが、直前になって、300km、250kmに修正された。当初からドイツや日本の技術をベースに開発し、国産化を進めてきたものの、技術供与国でも通常は実施していない高速で運行するのは安全面で心配が残る、と不安の声がささやかれていた。中国では鉄道局幹部の不祥事が発覚し、鉄道建設計画も一部で見直しや繰り延べが発表されている。鉄道関連の板金製品を製造する板金企業の中には「2011年前半は当初の受注見込みから40%程度減少。通年でも前年比で20%ダウン」と予測するところも出ている。しかし、そうした中でも、ある経営者は「鉄道建設計画がキャンセルされたわけではないので、来年以降は従来どおりの期待をかけている」と強気の見方を示している。ここに来て、中国の板金企業の経営者が心配しているのがインフレ懸念。金融引き締めによって資金繰りが悪化し、新規の設備投資に回せる資金が枯渇、人件費の上昇にもつながるため、コストアップ要因が増すという課題も発生している。今回訪れた板金企業経営者は一様に「ここ2〜3年のうちに人件費の高騰、人手不足などによって、これまでのような人海戦術による生産を継続することはできなくなる。今後は自動化・省人化を考えていかなければ国際競争に負ける」と述べていた。
そして、ここからが重要だが、中国と日本の経営者の決定的な違いが明らかになってきた。日本人経営者は先代から引き継いだ板金事業を「家業」として次世代にバトンタッチしていくことを考える。しかし、筆者が出会った中国人経営者の多くは年齢も40歳前後と若く、創業年数は10年にも満たない。その多くが創業に際して親類縁者から出資者を募り、高額の利益還元を約束している。つまり中国人経営者にとって、板金事業は事業の“手段”だ。それだけに、板金事業からビジネスとしての魅力が薄れれば、あっさりと事業から撤退することも十分考えられる。中国人経営者はキャピタルゲインを得るために会社を大きくして株式の上場を考える。すでに浙江省や江蘇省などの板金企業の中には、深市場への上場を果たした企業が数社現れており、2015年までに上場を計画している板金企業は10社を下らない。上場を考える中国人経営者は事業にアグレッシブであり、決断も早い。M&Aにも積極的で、ノウハウがある日系板金企業の買収を考える経営者も現れている。日中の板金企業経営者の板金事業に対する姿勢や取り組みには、大きな違いがある。それだけに、いたずらに空洞化による板金事業の収縮を懸念する日本人経営者は、もっと広い視野を持つ必要があるだろう。アジア内需を取り込むためには、グローバル化への取り組みを真剣に考えなければならない。事業意欲が旺盛な中国人経営者やその企業とアライアンスを組むのも1つの方策である。もちろん企業買収のリスクも考慮しなければならないが、収縮する市場を目の前にして手をこまねいていても仕事は生まれてこない。見る前に飛ぶことも必要だ。中国を訪れるたび、そのダイナミズムに心が打ち震えるのを感じる。